第13話
数時間後、翠蓮は麟堂学園の試験に受けるべく家を出なくてはならない時間になった。翠蓮は長椅子から立ち上がり雨月に声をかける。
「雨月、選んでくれ。試験中、お前は自由で外に出られないようにする状態で俺の影にいるか家で留守番かどっちg…」
「君の影」
「は、早いな。じゃあ、そうしてくれ」
「わかったよ。もし俺の力が必要ならいつでも呼んでね」
と言いながら、雨月は翠蓮の影に入って行った。翠蓮は雨月が入ったのを確認して、雨月が自由に出られないようにする。そして翠蓮は、試験に必要な物を持って家を出る。筆記用具、受験番号が書かれている携帯、武器等である。
そして翠蓮が歩いていると、頭の中に直接語りかけるように雨月の声が頭の中に響く。
『蓮くん、聞こえるー?』
『あぁ、聞こえてるぞ』
『良かったー!君の視界からしっかり状況は分かるから安心してね!』
『なら、退屈しないで済むな』
そう話しながら翠蓮は、麟堂学園の試験へと向かった。
そして翠蓮は麟堂学園へと着いた。麟堂学園の雰囲気はピリッとした重苦しい物を感じ取った。その様子は、生徒たちの『絶対にこの学園に入る』という覚悟が痛いほど伝わって来ていた。翠蓮は、その雰囲気に微かに押されていた。陰陽師としての目に変わる。そして僅かに躊躇していた足を踏み出す。その堂々とした佇まいに誰もが息を呑んでいた。そして翠蓮は、試験を淡々とこなしていく。その結果は平均的な物になるように抑えていた。翠蓮は試験を終えて帰ろうとしたが、誰かに呼び止められる。その人物に翠蓮は面倒くさそうにしながらも振り向く。
「……今、こんな所見られたらコネで合格させたと思われるんじゃねぇのか?虎珀」
「まぁ、そんなんだけど。こんなこと言うのは何だけど私も結構地位があるからね。教育委員会なんて目じゃないくらいに…さ?」
「教育者のセリフじゃねぇだろ」
「それなー、私もそう思うー!でも、君みたいな訳ありの子を守りたいと思うのは教育者の鏡だと思わなーい?」
梅は、そう言いながらもケラケラと笑う。翠蓮は、それを肯定するように
「それを他のやつにしてやれ」
と言いながら翠蓮は梅から背を向ける。そんな翠蓮の背中を見つめながら、梅はある人間の名を呟いた。刹那、その名を聞いた翠蓮の体に電流が走ったような状態になりながら、即座に振り向き、梅に詰め寄る。
「何で、その名を知ってるんだ」
と翠蓮は微かな震えを抑えた声で梅に問う。翠蓮の突然の動揺に驚きを隠せない梅は平静を装いながら当たり前のように答える。
「知ってるって言われても、その子が私の親友だったからだよ。あ、そう言えば…丁度貴方くらいの年代の子の子供がいるんだった。名前は…」
「翠蓮、だろ?」
「……うん。まさか…こんなに強く人を守れるようになったとは思わなかったけど。あの子も喜んでるよ」
「……………だと良いけどな」
とだけ告げて翠蓮は今度こそ帰路につく。その背を梅は見ていた。翠蓮の耳につけている耳飾りと首筋にあるであろう梅の親友がつけていた首飾りを。そして見えなくなったところで、梅は苦笑した。
「―――何で私はあの子の息子だって分からなかったのかしら?あんなにあの子達に似てたのに。………貴方があの子の子供で良かったわ。翠蓮」
と言いながら梅は、学園の方へと消える。
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