第2話 ごっつぁん

田舎を出て王都を目指す旅のしょぱな

さっそく新たな出会いがあった。


荷物を拾ってやっただけで、顔を真っ赤にして怒鳴られたが、

これがツンデレというものなのだろうか?

正直よくわからんが、まあそういうことなんだろう。


夕方になって森の影が濃くなり、俺たちは自然と足を止めた。

日没前までに抜けるつもりだったが、どうも予想が甘かったらしい。


“俺たち”と言ったが、じつはあのツンデレ娘は今俺と一緒に居る。


「女の一人旅は危険だろう。一緒に行かないか?」


声を掛けたら何も言わずについてきた。

俺の持つ“朴訥オーラ”が功を奏したのかもしれない。


もうすでに日は傾いている。

森の底の色が黒く変わる前に、焚き火の準備を始めた。

火打石を打ち、乾いた草が火を噛んだ瞬間、ぱちぱちと音が広がる。


夕飯を済ますと、

ツンデレ娘は少し離れた場所に座り腕を組んで俺を睨んでいた。


頬がほんのり赤い。

暗い森の中で炎に照らされるその顔は、

強がりながらも緊張した様子を隠しきれていない。


「お前、寒いんじゃないのか?」


俺が声をかけると、彼女は慌てて顔を背けた。


「べ、別に寒くなんかないわよ!」


だが肩が小さく震えている。俺はため息をつき、上着を脱いで差し出した。


「着ろ。風邪でもひいた日には、王都につくのなんていつになるかわからないぞ」


彼女は一瞬ためらったが、結局受け取って羽織った。

顔はさらに赤くなり、視線を合わせようとしない。

俺は焚き火に薪を足しながら笑った。


「一緒にいるからって、勘違いしないでよね」


小さな声でそう言った彼女は、やがて焚き火の近くに移動してきた。

俺の隣に座ると、ちらりと横目で俺を見て、すぐに視線を逸らす。


そのときだった。森の奥から獣の低い声が響いた。

俺は即座に立ち上がる。炎の向こうに、黄色い目が光った。

狼だ。二匹、いや三匹。ツンデレ娘が息を呑んで俺の袖を掴んだ。


「ひっ……!」  


狼たちは牙を剥き、焚き火の周りをぐるりと囲む。

俺は前に出た。筋肉は裏切らないからな!


拳を握り、最初の一匹が飛びかかってきた瞬間、

全力で拳を振り抜いた。鈍い音とともに狼が地面に叩きつけられる。


残りの二匹は一瞬怯んだものの、すぐに唸り声をあげ突進してくる。

俺は片手で薪を掴むと、炎を纏った即席の棍棒でブッ叩いてやった。

甲高い鳴き声を上げた狼たちは、森の闇に溶け込むかのように消えた。


静寂が戻る。

ツンデレ娘は俺の背中にしがみついていた。

震える手が離れない。俺は振り返り、彼女の肩に手を置いた。  


「もう大丈夫だ。狼は退けた」


彼女は涙目で俺を見上げ、そして慌てて顔を背けた。


「べ、別に怖くなんかなかったんだから!」


──狼が去った森は時とともに静けさを増していく。

今はもう虫の声と焚き火の音が響いているだけだ。


俺は背中を伸ばし、堂々と座っていた。

すると、彼女が少しずつ距離を詰めてきた。

俺は動かない。やがて彼女の肩が俺の腕に触れた。


「……ちょっと寒いだけ」


俺の中に、またあの言葉が浮かぶ、


『英雄色を好む』


いや、俺の考えでは多分女が英雄を好むのだが……。


焚き火の炎が揺れる中、彼女の体温が伝わってくる。

強がりながらも安心を求めているのが分かる。


俺は何も言わず、ただ受け止める……筋肉は裏切らない。

肩幅も胸板も、こういうときにこそ一層輝く。


「……あんた、名前は?王都で何をするつもりなの?」  


俺は胸を張って即答した。  


「俺はゲット。王都で英雄になる男だ」  


その言葉に、彼女は少し驚いたように目を見開いた。

だがすぐに笑みを浮かべ、また顔を赤くした。


 「ふ、ふん……変な名前ね……私はレナ……そっか、まあ雰囲気だけは悪くないかもね」  


俺は心の中で拳を握った。

レナの心を少しずつ掴んでいる気がする!


夜が更け、レナは眠そうに目をこすった。

焚き火の炎が弱まり、森の闇が濃くなる……

彼女は俺の肩に頭を預け、そのまま目を閉じた。


俺は、それを“好機”だと受け止めた。

英雄色を好む。

いや、好まれる?……これが俺の伝説の始まりなのか?


──翌朝、レナは妙に機嫌がよかった。


顔を赤くしながら


「べ、別に昨日のことなんて覚えてないんだから!」


と叫んだが、俺の腕を掴んで離さない……意外とかわいいなこの人。


俺は、すべてをしっかり手に入れる男でありイケる時にイク男……。

またの名を“ヤレる時はヤル男”ゲット。

俺の英雄への道のりは、まだ始まったばかりだ──言っても、まだ二日目の朝だしな!

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孤児だったけど村ぐるみで育てられた俺は逞しく成長できた。だからあえて村を出てみることにした。 茶電子素 @unitarte

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