転生⬜︎⬜︎ 異世界天下布武

かわ矢見 射寿

第1話「魔王転生」


轟轟と、猛き炎が燃えあがる。

ある日、ある国、ある部屋で、「魔王」と恐れられた男が炎に包まれ死を迎えようとしていた。その炎は「悪」を浄化するように、それは大きく燃えあがった。

男に向かい、掛ける音、影二つ。

「殿!!」

襖を開けたのは一人の青年、男の小姓だった。息をきらしながら主君のもとへ駆けつける。

声のした方、男は振り返る。

「⬜︎⬜︎か…」

炎の音でかき消されたその声は、かつての家臣の名だった。

男の声を聞いた小姓の眼から自身が裏切られ、死の淵に立たされている事を思い知る。

「お逃げくだサ」

小姓はそう言いながら主君に駆け寄ろうとしたが、それを炎が遮る。それはまるで男の覚悟のように、轟轟と燃え盛る。

瞬間、男の右の障子が勢いよく開かれる。

「見つけたぞ魔王め!覚悟!!」

甲冑を纏った男が刀を手に迫ってくる。

迫る刀を男は横に置いた刀を抜き、受けた。そしてそのまま斬り返し、横薙ぎで一刀両断にする。男はそのまま表へ出る。攻め入る敵を斬り倒していく。その姿はまさに「魔王」。家臣の一派はその強さに恐れ慄く。だが多勢に無勢、気づけば男は体中に傷を負い、背中に炎が移っていた。男は奥の部屋まで消えていく。

全てを閉め部屋の中央、男はこれまでの人生に想いを馳せる。道半ばで死を迎える。だが男の眼は未だ死なず、諦めは微塵もなかった。男の身体は以前として炎を纏っていた。

戸の先では今も戦いの音が聴こえる。男は刀を自身の腹へ向ける。

そして刀を己の腹に深々と突き刺し、前のめりに倒れていった。

………

死んでも尚、身体を焼き尽くさんとする炎に男はむしろ心地よさを感じていた。

そして男は目覚める。

出会い、別れ、争い、戦い、友となる物語が。

その身を灰にする運命を、その身に背負いながら。

………

「此処は何処だ」

まるで決まりごとのように男はその言葉を口にした。

露出した木の根に背中を押されながら、大木の影、体を起こし男は辺りを見回す。先程までいたはずの寺がなくなっている。そう思うのも束の間、男は上から吹く風に身体を震わせる。何かと思い、男は影から飛び出し空を見上げる。

『なんじゃ…あの生き物は…!』

見上げた空には巨大な龍が空を持っていた。だが男は翼の生えた龍など知らない。そして男は

『トカゲが…トカゲが空を飛んでいる…!』

そう認知してしまった。

『なぜトカゲが翼を持っているのだ?』

男は「空飛ぶトカゲ」にさまざまな疑問を抱いていると。こちらに向かってくる気配を感じ取る。気配のした方に男が視線を向けると、紫髪の少女がこちらに向かって駆けて来る。男にとって珍しい格好をしていた少女に目を奪われる。男は少女の方をよく見るとため息を漏らす。男は白刃の剥き出しになった刀を手に取り、少女の方へ向かった。

男は少女の方へ駆け寄り、自身の後ろに退かせ前に立つ。するとため息の正体が姿を現す。

「娘を守って王子様気分かぁ」

そう言いながら大量の下卑た笑いが男の方に向かってくる。

男はその笑い声に嫌悪感を示す。誇りや名誉に生きた男にとって、野党は心底嫌いだった。

「死にたくなきゃ、そのガキを置いて逃げな!」

「テメェみてぇな青臭えガキは帰ってママの乳でも吸ってろ!」

野党が男に向かってそう言い、前に出てくる。そして男の首筋にナイフを当てる。

「どうしたぁ?チビって動けなくなっちまったか?」

そう話す野党の一人には首がなかった。

「うわぁああ!」

「こいつ…首を一瞬で…」

野党たちは恐怖を帯びた声を上げながら後ろに下がる。

男は血振りをすると、天を見上げ高笑いをする。

「ハーハッハ!貴様ら、ワシを皇子などと見誤ったな!」

そして刀を掲げ、堂々と声を上げる。

「我は魔王!」

男は少し間を置くも、声を大にして続ける

「“泰巌”!!」

しかし男が名乗りを上げる上がると同時、

「ぶっ殺せぇ!」

野党たちは男に向かい襲いかかる。泰巌も刀を構え、野党たちに向かっていく。

襲いかかる野党たちの斬撃を斬り返し、いなしながら、泰巌は一人また一人と切り倒していく。数々の戦場を戦い抜いてきた泰巌にとって、野党の攻撃など掠ることもできない。そして野党の半数が骸とかした時、泰巌は自身の失態に気づく、少女から離れてしまっている。泰巌が少女の方に目をやると、

「きゃぁー!」

少女は悲鳴をあげながら野党の男に連れ去られそうになっている。泰巌は直ぐに少女の方へ向かう。だが背を向けることは即ち、敵に隙を晒すこと。野党たちはその背中を容赦なく襲う。

泰巌は少女を連れ去る男の背中に、深々と刀を突き立てる。そして再び少女を自身の後ろに退かせるが、振り返ると目の前に霧がかかり野党が見えにくくなる。

「なんだぁ!」「何処行きやがった!」

野党たちも泰巌を見失う。泰巌はボヤっと見える野党たちに刀を構える。

次の瞬間、霧の中から飛び出した影に、泰巌は両肩を切り裂かれていた。

「ぐぉ…!貴様ぁ…!」

泰巌は後ろに刀を振い反撃する。

「ちぃ…」

だが泰巌の刃は、男の胸を掠る程度に止める。霧が晴れ、辺りがはっきりと見えてくる。だが男は少女を傍に抱え、片手で自身の胸を抑えながら逃亡を計る。

その時少女が声を発する。

「殿!」

泰巌は目を見開く。

「見えたぞぉ!」「殺せ殺せぇ!」

だが他の野党たちも泰巌を見つけ、向かってくる。

泰巌は応戦すべく構え直すも、霧のせいで野党たちはバラバラに散っていた。

泰巌はどう対処するか、だが考ると同時、ふらつき始める。

『流れた血が…多いな…』

体は震えるほど寒く、それでいて肩は焼けるように熱い。

野党たちは走りながら振りかぶる。迫る死に泰巌の震える身体に熱が篭る。それは怒りによるもの、瞬間、泰巌は雄叫びを上げる。

「この…痴れ者どもがぁぁ!!」

その声の衝撃にその場にいた全ての者の動きが止まる。少女を抱えた男も、思わずその少女を落としてしまった。

泰巌は熱くなった腹に手を当てる。

「これは…」

泰巌の手には火が灯っていた。その火は直ぐに大きく燃え上がり、炎になる。泰巌は咄嗟に刀を横に構え、その炎を刀に沿わせていく。

刀は炎を纏い、轟轟と燃え盛る。

「あ、あんなのただの芸だ…!」「そ、そうだ…!こ、殺せぇ!」

野党たちは声を上げ、振りかぶる。

対して泰巌は居合の構えをとり、脚に力を込める。

『まずい!』「お前ら伏せろぉ!」

泰巌を切り裂いた男は咄嗟に叫ぶ。

「ハァァァ!!!」

泰巌は構えた刀を、回転しながら横薙ぎを放つ。その一刀は太陽を描くように、赤く、熱く、燃え盛った。

辺りの野党たちは数メートルは吹っ飛び、その体は横に真っ二つになり燃える。残った一人は苦悶の表情を浮かべる。

泰巌は止まることなく、男へ向かっていく。だが男もまた武器を構え、先程のように霧が発生する。

それに構わず、泰巌は刀を袈裟に振るう。炎を纏った刀により、周りの霧が一気に晴れる。男は後ろに跳ぶも、胸から脇腹までバッサリと切り裂かれた。

「グハァ…!」

男は血を吐きながら地面を転がる、しかし直ぐに立ち上がる。その目は死んでいなかった。泰巌はその目を見て上段に構えたまま動きを止める。そして刀を下ろし、男に向かって問いかける。

「貴様!名はなんと言う!」

男はその問いにフラフラと震えながら、しかし手に持った短剣を泰巌に向け堂々と言い放つ。

「俺の名は…シバ!」

男は死の間際でも、目の前の死に恐怖しながらも、自身の名を言い放った。そして生き残るべく、泰巌に向かい突っ込む。その眼は野望でもあるかのように、燃えるようだった。

「気に入ったぞ…!」

泰巌は口角を上げると同時、刀の反りを男に向ける。

そして向かってくる男の首目掛け、一気に落とす。

「ご!!」

男は首に当たると同時、前のめりに地面に伏した。

………

「痛っ…!」

男は目覚めた。泰巌にやられてから数分。男はうつ伏せのまま、前に立つ泰巌を見て飛び起きる。そして息を荒くしながら男は自分の首に手を当てる。男は自分がまだ生きていることを理解すると、落ち着きを取り戻す。泰巌はその様子を見ながら少し前に出て近づいた。

「生かしたのか…?俺はあんたを殺そうとしたんだぞ…」

男は泰巌に向かって問いかける。なぜ情けを掛けた?あれほどの怒りを見せた相手なのに。

「はっはっは!」

泰巌は質問に対し、笑いながら答える。

「ワシは、貴様が此処で死ぬには惜しい、そう思っただけだ。それに、貴様は痴れ者とはどうも違う気がしたのだ。」

「違うって、俺はただの野党だぞ。」

そう言った男に泰巌は続ける。

「貴様、シバとか言ったな。」

泰巌はシバの眼を見つめ、言い放つ。

「シバよ!ワシの家臣になれ!」

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