第2話 異世界のハロウィン
苦しかった。
街を歩くだけで、息が切れた。
ハロウィンの飾りでにぎわう通りを、僕は歩いていた。
仮装した人々が笑いながら行き交う通りを僕は歩いていた。
その中では僕だけがまるで異世界に迷い込んだ異物みたいだった。
周囲の喧騒とは裏腹に、僕の心は平坦で「世界から拒絶されている」ように感じられた。
小さな頃からずっと身体が弱かった。
遠足、運動会、家族旅行──行事のたびに倒れて熱を出した。
それでも父も母も年の離れた姉も、誰ひとり僕を責めなかった。
クラスメートも、友達も、優しかった。
「大丈夫だよ」と言ってくれた。
「無理しなくていいよ」と言ってくれた。
「君のペースで大丈夫」と励ましてくれた。
その言葉は本来なら救いのはずだった。
……だけれども。
その優しさが、かえって僕の胸に突き刺さった。
僕には眩しすぎて、抱えきれなくて、
“情けない自分” をそのたびに突きつけられているようで、苦しかった。
せめて普通になりたい──そう思って努力してもそのたび、やっぱり僕は熱を出して寝込み、また周囲に迷惑をかけた。
それでもどうにかこうにか進学し、大学を卒業し、
ようやく「人並み」と言える就職先が決まった矢先だった。
「ガンですね」
主治医の声はどこまでも静かで、僕の思い込みかもしれないけど無機質にすら聞こえた。
治療方針、これからの生活、余命のこと、これからのことを淡々と告げられた。
姉は泣いていたと思う。
両親は目に見えて困惑していたけれど、きっとたくさん話し合ったのだろう、考えたのだろう
次の日にはしっかりと僕の目を見て「大丈夫」だと言ってくれた。いつもと同じように。
泣き腫らしたであろう母の目が、よく寝れなかったのだろう父の顔が印象的だった。
なんて優しいんだろう、なんて強いんだろう
なんて頼もしいんだろう
でも僕は、だけど僕は──悲しみよりも、嬉しさよりも、ありがたさよりも
ただただ“情けなさ”でいっぱいだった。
病気の自分も、弱い自分も、
未来をつくりだせない自分も、
全部、全部、惨めで弱くて情けなくて最悪だった。
優しさを素直に受け入れられない、両親の決意に感謝すらできない自分が
格好悪くて
嫌だった
だから。
投薬治療の合間の仮退院の日、
僕は誰にも言わず街に出た。
家族にも、病室で仲良くなったあの子にも告げず……
鬱屈した気持ちをどうにかしたくて
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