第2話「運命の出会いは破滅の始まり」
夜会の会場は、きらびやかな光と人の熱気に満ちていた。公爵家の嫡男として最低限の挨拶を済ませたリオネルは、すぐに人の目から逃れるように壁際に身を隠した。
今夜、アシュレイ王子と主人公のオメガが出会う運命のイベントが始まる。原作通りなら、その場所にリオネルがいるだけで、悪役としての存在感が破滅フラグを際立たせることになる。
(まずい、ここに長居はできない。王子と会うのだけは絶対に避けなければ)
リオネルは会場の隅で身を小さくし、原作の主要人物たちが集まる場所から必死に遠ざかろうとした。願わくは、アシュレイ王子が主人公を見つけるまで、自分の存在が空気でありますように、と。
しかし、転生者の悲しい性というべきか、運命は必ず彼を物語の舞台に引きずり出そうとするらしい。会場の喧騒から逃れようと、人の少ないテラスへ足を踏み入れた瞬間、その『運命の相手』と鉢合わせてしまった。
夜風が肌寒いテラスには、ただ一人の男が立っていた。
「……っ」
月明かりの下、氷のように冷たい視線がこちらを射抜く。そこに立っていたのは、まぎれもないアシュレイ王子その人だった。
原作のヒーローであるアシュレイは、物語の通り完璧な美貌と威厳を兼ね備えたアルファだった。彼は一切の感情を顔に出さず、ただ静かにリオネルを見つめている。その瞳は彼のすべてを見透かすようで、心臓を鷲掴みにされたかのように凍りついた。
(嘘だろう。なぜ出会いの場面を回避しようとしたのに、本人と鉢合わせてしまうんだ)
悪役令息としてすでに悪名高いリオネルは、原作で王子に相当な嫌悪感を抱かれていた。第一印象は最悪。それが原作における彼の常だった。
鋭利なナイフのような言葉で断罪されるのではないか。絶望的な未来を幻視し、足は鉛のように重く、逃げ出すことさえままならない。
「…リオネル・グレイファードか」
アシュレイ王子の声は、月の光と同じくらい冷たく、そして美しかった。全身から冷や汗が吹き出し、リオネルは震える足でかろうじて礼をとった。
「…お初にお目にかかります、アシュレイ殿下。ご無礼をお許しください…」
そう言って頭を下げた瞬間、激しい恐怖からポケットの抑制剤がまるで自らの罪を示すかのように重く感じられた。
アシュレイは彼をじっと見つめ、何かを測るようにわずかに首を傾げた。それは一瞬のことで、すぐに元の無表情に戻ったが、リオネルの不安はピークに達していた。
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