第4話 パトロールの最中


今日も屋上で、智香と隆一は日向ぼっこをしていた。


「智香ー、何か変わった事無いのか?平和すぎだろ?」


そう話しかけられた智香は、少し考えると何か思い出して話し出した。


「そう言えばこの前、シマのパトロール中に…。」


***


智香は縄張りを荒らされないように、いつもパトロールをしている。

そんな中ある放課後、そろそろ奈々が学校へ向かう時間を見計らって、智香はコンビニに向かった。

するとちょうど、仕事を上った奈々が、特攻服を来て髪も下ろした状態でコンビニから出て来た。


「おー、智香じゃねーか。どうした?どっか荒らされてる場所でもあったか?」


「いや、そろそろ総長が上がる頃かと思ってフラッと寄っただけっすよ」


「そうか…。」


すると、奈々は少し顔色を変え、智香の腕を引くと顔を近づけてコソコソと言った。


「お前少し気いつけろよ?ポスターの件もあるし狙われてんだから…!」


「え?大丈夫っすよー、そんな大袈裟な」


そう言われても平然としている智香に奈々は呆れながらため息をついた。


「いいか智香!今日はもうパトロールはいいから帰れ!総長命令だ!」


「えー…。」


まだ帰りたくない智香が、どうしたら総長命令を回避出来るか考えている様子に、奈々は顔を片手で覆った。

その時、事件は起こった。


「キャー!」


2人の目の前で、自転車の少女と車の軽い接触事故が起こった。


「フラフラしてんじゃねーガキが!」


少女は無事だったが、自転車を壊した赤い車の男性はそう言うと走り去ろうとした。


「…私らのシマで、しかも目の前で!上等じゃねーか!行くぞ智香!」


「よっしゃ!それでこそ総長!」


帰宅を回避出来た智香は、どこか嬉しそうに奈々がコンビニの裏から出した白いバイクの後ろに乗ると、2人は赤い車を追いかけた。

赤い車の男性は、追われているとは知らず、運転しながらタバコを吸っていると、信号で隣に停まった智香と奈々に車体を蹴られた。


「ひき逃げ犯が!のん気にタバコ吸ってんじゃねー!あの子に謝れ!」


「今すぐ引き返さなければ警察呼ぶぞおら!」


「…なんだコイツら!?」


赤い車の男性はタバコの火を消すと、暫く逃げたが、暫くしてから逃げられないと悟り、女の子の所まで引き返す事になった。


***


「へー、そんな事あったのか。すげーな総長ことナナちゃん」


コーヒー牛乳を吸いながら隆一はそう言うと、奈々の事と同時に昌平の事を思い出していた。


…俺も知らなかったけど、もし昌平がコンビニのナナちゃんが不良グループの総長だって知ったらどうなる事か…よし!秘密にしとこう。


隆一はそう思い至り、昌平の「そんなー!」と言う顔を思い浮かべてニヤリと笑った。


「何だ?何かいい事あったか隆一?」


「いや、何でもない」


「…?」


智香はハテナマークを浮かべながらパンにかじりついた。


「それで、その後は一件落着だったんだな?」


隆一がそう尋ねると、智香は少し引きつった顔をした。


「違うのか…?」


隆一の問いに、智香は頷いた。


***


確かに赤い車と少女の事故は、あの後男性が少女に謝り自転車も弁償するという事で一件落着した。

だがその後、予期せぬ事態が起きた。


「アンタ!やっと見つけたわよ!ここで会ったが百年目!私を殴った事、今日こそ後悔させてやるわよ!」


荒井秋穂が突如、シルバーの車に乗って現れ、メガホンでそう言うと、面倒はごめんと思い、智香は奈々にバイクを出すよう催促した。


「総長!逃げましょう!総長だって私と連んでるのがコンビニのナナちゃんだってあの人にバレたらマズいっすよ!」


「まぁそうだな…逃げよう!」


こうして秋穂に煽り運転されながら逃げるという構図が生まれた。


「何でこんな事になるんだ!」


「知らないっすよ!総長もっと飛ばして!」


「待ちなさい!不良娘ども!」


秋穂の追跡は暫く続いた。


***


「なるほど!それは傑作だ!」


隆一が笑いながら手を叩くと、智香は少し口を尖らせた。


「そうやって人の苦労を面白がったらいいさ。地獄に堕ちるからな!」


「さらっとやな事言うなよ。わかった悪かったよ」


「ふん!別にいいけどさ!」


そんな事をしていると、屋上につながる階段から足音が聞こえた。


「隆いっち!いないから探しに来ちゃったよ。最近一緒にダベってる子、紹介して!」


「やべ!隠れろ智香!」


「えっ…?」


隆一は昌平の来訪に慌て、入り口の反対側から見えない位置だったため、制服の上着を脱いで智香に被せた。

そんな事をしている間に、昌平と目が合った。


「何してんの?」


「何って…何も!」


「そこに女の子居るよね?紹介して!」


「バカお前!誰も居ねーよ!」


隆一がモゾモゾしている智香をバレバレの背後に隠しながら、暫く昌平と屋上をバタバタ回った。


「居るでしょそこ!紹介してくれよ!」


「だから誰も居ねーって!」


このやり取りは昼休みの終わりまで続いた。


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ダベダチ 雪兎 @yukito0219

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