他者の心を飲む、自分が自分であるために。
- ★★★ Excellent!!!
社会人である女性主人公は、日々の生活に疲れていた。しかし、ある喫茶店で鏡から名前と姿を取られてから、その存在の希薄さに拍車がかかり、ますます不確かな存在になってしまう。主人公は喫茶店で働きながら、鏡の行方を探すことになる。
しかし、その喫茶店はただの喫茶店ではなく、妖怪たちが集まる場所だったのだ。主人公は戸惑いながらも、心の芽を切って煮詰めた茶を飲むことに。初めは飲みにくい茶の味も、その人外を知って飲むと円やかになる。また、店主に指示されてハーブなどを入れて飲むと意外に美味しい。主人公は人外ごとに異なる茶を飲むたびに、自分の不確かさを知り、克服していく。
そんな主人公が心配していたのは、自分の姿と名前を盗んだ鏡が、人間社会で何をしているかだった。時はSNS社会。自分の姿で他人に迷惑をかけたり傷つけたりしていないか不安だった。そして自分の評判も鏡のせいでおかしくならないかと案じていた。
しかしある日、主人公はかつての知り合いに出会い、一つの決心をする。それを揺るがないようにするために、店主と鏡について知っておきたかったのだが……。
他人の心を知ることで、自分の存在を知る。それは奇しくも普遍的な人間の営みだ。それを妖怪喫茶という形で表していることが素晴らしい。
また、文字には乗らない味や香りについての描写が凝っていて、追加されるハーブの知識も豊富で、まるで文章から味や香りがたっているように表現されている。作者様の想像力と表現力の豊かさに圧倒される一作でした。
是非、ご一読下さい。