罰
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
云壇の神社…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
つゆと弟・尊は正座をし云壇は正面に立ち
「ちょっと気が遠くなるかもしれないけど、心配いらないからね。」と言った。
尊は不安そうにつゆに尋ねる…
「ちょ、ねぇちゃんこれ…」
「大丈夫、云壇様もこう見えて神様だから。」
云壇はけっけっけと笑いながら
「そうそう、僕は“一応”神様で、連続殺人犯じゃないよ!」
「なんか薄ら気味悪いかったからさ…ごめんなさい。」というが反省はしていない。
そうすると、2人のおでこに手のひらを翳し、しばらく。
2人は少しだけ気が遠くなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次に2人が目を開いた時には天護の神社に来ていた。
そして目の前に…本当に目前に…大きな猪顔をした神様がいた。
尊「うわああああああ」
つゆ「天護様、ただいまです。」
天護「おかえり…」
尊「えっと…こんにちは?」
きょろきょろし、すこし狼狽えながら挨拶をする尊。
天護「こんにちは、君は誰だ。」
つゆ「私の弟です、家に来てまして。連絡つかない私を心配したみたい。」
天護「どうりで叫び声が似てると思った…そうか、家にいた人影というのは君だったのか。」
つゆ「ってわけでもないんですよ…」
ほっとしたのも束の間、何かありそうなつゆの告白に
「なんじゃと。」と真剣な声になり、反応する天護。
つゆ「私もよくわからないけど、何かが…家にいて、弟がぎりぎりで部屋のドアを抑えてて…」
説明しようにもなんて言っていいかわからず、悩んでいたらすぐに橙・蒼・云壇も到着した。
そして云壇が「あれはしょっぼい生霊だったわ。」という。
「生霊だと?誰のだ。おまん、連れてこいといったろ、どこにある。」
蒼がすかさず「こちらにあります。」と天護に渡す。
天護はつゆの方を見る。
そして「…怪我はないか?」と聞くと、
「大丈夫だよん、心配ありがとう♪」とすかさず返事をする云壇。
天護「おまんに聞いてないわ。つゆと弟君だ。」
つゆ「弟も私も大丈夫です、ありがとう。」
天護は「ほうか、よかった…」と安心して、さっき受け取った瓢箪をもって社を出る。
一同も天護を追って外に出た、もう日が暮れかけているが…まだ暗くはない。
ふと境内の一角に目をやると竹と注連縄で囲まれた中心に木が積まれていた。
つゆ「ん?それは何です?」
天護「おまんらが行ってる間に準備しとった。」
どうやらお焚き上げの準備らしい。
云壇「ちょっと過剰じゃない?僕の瓢箪に入れてれるから川にでも流せば?」
「いや、徹底的にやる。」そう言った天護の目には容赦はなかった。
「ただの生霊だよ?そこまでしなくても…」
「儂の護る土地の村人を襲うなんて許せん、反省してもらう。」
「つゆちゃんだからでしょう、もう素直じゃないんだから♪」
天護「…橙、火だ。」
橙が篝火から松明を持ち、それで組まれた木に点火する。
「本当にやるんだ?無事ですまないかもよ、その人達。」
云壇の質問を無視して、天護は黙ってその火が大きくなるのを待った。
そして炎が勢いついてくると、その中に瓢箪を投げ込んだ。
天護「…天罰だ。」
投げ込まれた瓢箪に火が着き、燃え盛る時…男たちの悲鳴が聞こえた気がした…。
それか、ただ木か瓢箪自体が燃え朽ちる音だったのかもしれない。
尊「今なんか…」
天護「気の所為だ。さ、みんなご苦労さんだった。茶でも飲もう。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
天護の本殿の奥にある居住区の庭に集まり、一同は橙の淹れたお茶で憩う。
云壇「なんかバタバタだったね。山神様も来てたんでしょう?朝早くに。」
つゆ「はい、6時頃に…絹月様も。」
云壇「大変だったねぇ、でもつゆちゃんが来てからこの山はなんか元気になってきたかもね。」
天護「…よお頑張ったな」
云壇「ありがとう♪」
天護「おまんに言ってないわ、だらが。」
云壇「代わりに人里に降りてる僕にもうちょっと感謝してもよくない?!」
「えっと皆様…改めて、これは私の弟で、尊っていいます。」
尊は姉・つゆの隣に立って「こんにちは…。」と挨拶する。
そこに居る姉以外全員が神と神使、つまり人間以外のものである。
その中の3人は人にみえる…が人ではない。
しかもただ1人、人に見えない巨大な猪神が大好きな姉の彼氏だという。
尊の目の前に進んでいき、腕組をほどき、咳払いをして話し出す猪の顔を持つ男神…。
その岩のような体からは想像できないくらい小さい声で…
天護「儂は…つゆの…おまんの姉の…その…」
云壇「恋人だって、なんで言えないの。照れるような事かね?!」
天護「おまんは黙っとれ!…尊君。姉君と家をよく守りきったな。」
尊「うっす…俺、力だけは強いんで。」
つゆ「ありがとうね。でね、ここは電波がなくて。だから電話通じなかったんよ。」
尊「そう…まあ姉ちゃんが無事でよかった…でもあの家、ちゃんと住む前にお祓いした方がいいんじゃない?」
云壇「それは僕に任せて。」
尊「ええっと…きつねの神様?でしたよね?」
云壇「そうだよ、僕は云壇。よろしく!君の姉君とこのブサイクな猪をくっつけたのは僕!ごめんね!?…ほんと、この神こんなでかいし、こんな猪顔だからこの山を出られないんだ。だから僕と橙と蒼のイケメントリオでお祓いするよ。」
つゆ「…ちょ!ブサイクじゃない!天護様だってイケメンですよ。」
天護「フォローせんでもいい…悲しくなる。」
そうしているうちに外はすっかり暗くなってしまった。
尊「俺、そろそろ大阪戻るわ…高速乗っても…だいぶかかるし。」
つゆ「ここでの事は誰にも言わないで、無事だっていうことだけで。お願い。」
尊「いうても誰も信じてくれないやろ。まあ言わんけど。」
天護「尊君…これ持っとれ。お清めした塩や。これ持ってたら大丈夫。」
尊「ありがとうございます。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そしてまた云壇の社に飛ばされる全員。
弟はつゆの家の前に停めてあった車で大阪まで帰る。
「運転、気をつけるんやで」
「姉ちゃんも…また来るわ。」
「今度来る時は電話して。」
「したって繋がらなんやん…(笑)」
「そうやった…繋がらん時は多分だいたいあそこの神社におるから。」
尊はつゆの家の裏山の中腹にある鳥居を見上げる…
「俺、あんな所まで登れんて…シティボーイやで。」
「あ、名刺渡しとくね。僕、不動産屋の“明智”だから。この事務所に来てくれたらこっちの神社から飛ばしてあげる。」
「うっす…ありがとうございます…。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「念の為お祓い終わるまで天ちゃんとこにいるんでしょう?」
「はい、天護様もそのほうがいいって。」
「お荷物は私達で運びますので、つゆ殿は天護様の元へお戻りください。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こうして突然、つゆと天護の同棲生活が始まる事になった。
猪神様と鈴の音。 瀬戸ゆかり @Set_Yukari299
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。猪神様と鈴の音。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます