43.終戦期

【サイン視点】


「お世話になりました!」

「じゃあな。また来週も世話になる…と言いたいところだがその腕じゃ無理だな」

「ああ、さすがに完治するまで大人しくしてるさ」


俺はヴィクトール達がシェルターに帰るのを見届けた。装備も一々取りに来られるのも面倒だからあげると言ったけどやっぱり断られた。リビル君は名残惜しそうにしてたけど…


いくつかの果物の缶詰もお土産で渡してあげた。もちろん、アミューの拾ったものではなく俺の拾ったやつをだ。


缶詰を受け取ったヴィクトールの顔が意外な程に笑顔だったことが印象的だった。いや?苦笑いなのか?まあどっちでもいいか。


というかこれはいつまで付き合えば依頼達成になるのだろうか…聞き忘れてたな。



「さあ、俺達も休むか」

「そうだね」


アミューはまだ透明だったけど、俺の折れた腕をまだ擦っていたので位置はわかってた。さすさすジンジン…薬も完全に切れたから凄い痛い。痛いのを顔に出さないようにするので一苦労だが?


ちなみに今日は外出中に侵入者がいたらしい。トラップのゴミ箱から遺骨と遺影がセットになった箱が10個も出てきた…


遺影を見た感じ盗賊ウォーカーか。全く、トラッパー様様だぜ!この間イジられたけどもう許しちゃうんだから!


いつもの部屋に戻ったらアミューの姿が見えるようになった。目は…大丈夫だな。いつもの元気な目だ…アミューの感情は目にすぐ出るから、わかるようになってきたぞ。


「さあ!サイン!寝る!」


アミューが素早く寝床に移動し、毛布が敷き詰められた床をバンバン叩く…いや腕の骨折だけだから寝込まなくてもいいんだが…


「ありがとう」


娘の優しさを無下にするわけにはいかん!俺!ゴートゥーモウフ!


「待っててね!ご飯作ってくる!」

「ちょっと待とうか」


またロウさん直伝【味覚喪失ハウンドドッグをフード】を食わされたらたまりません!

慌てて起き上がりアミューを止める


「寝てなきゃダメだよサイン」

「一緒に!一緒に作ろうぜ。俺片腕しか使えないから手伝ってくれると助かる」

「一緒に!わかった!」


一緒なら大丈夫だろう。俺は立ち上がったついでに簡易的なギプスを外し、隠れ家の医療品用倉庫にあるちゃんとしたギプスを着用した。


「うわぁ、サインの家って何でもあるんだね…」

「たくさん拾ったからな」


俺の医療品用倉庫を見てアミューが驚いている。色んなとこで拾い集めたからな!(医療品は主に死体漁り)


何気にこうやって拾ったものを見せびらかしたい欲もあったのでそれが満たされて気持ちがいい。


「この薬打ったら治るんじゃないの?」


アミューが持ってきたのは紫色の液体が入った注射器だった。色はアレだが強力な回復薬であるので間違ってはいない。


「その注射を打てば確かにすぐに治るだろうが、それは緊急用で使うもんだ。戦闘中に負傷してすぐに治療しないといけない時に使うやつだな」


実際俺のパワーアーマーの中にも入っていて、マジでピンチな時にすぐに使えるようになっている。


「でもな、人間の体ってのは急速な再生に対応できないんだ。その時は大丈夫でも、後々おかしくなることがある。人間は弱いからな…できるだけ自然に治すのが一番なんだ」

「うーん、そうなんだ…」


一応理解はしてくれたけど納得できてはいなさそうってとこか?


アミューはダイナロイドだからなぁ。ダイナロイドって身体の何割かが無くなっても、数十秒で元に戻るんだろ?逆にこっちからしたら身体どうなってんのって話なんだが…


少し考え事をしていたら、突然アミューが医療倉庫にあったギプスを食べ始めた。


「おいおいおい、どうしたんだよアミュー」

「もぐもぐ…これで私がギプスを身体から出してサインの腕に付ければ…どう?」


アミューの手からさっき食べたギプスが生成された…いや何か変わるんですか…?


「付けてみるか」


もしかしたらダイナロイドの体を通すことによって、軽い再生付与みたいなサブ効果的なのが付いているのかもしれないし物は試しに…


ガチン!


ギプスに腕を近づけたら勝手に腕に巻きついた …そして右腕が微動だにしない。完全に固定されている。


「普通のギプスより安定してるかもな。ありがとうアミュー」

「えへへ、どういたしまして」


…ただの拘束具なのではないでしょうかこれ。肩から先がマジで動かなくなってる。でも俺はこの愛あるギプスを選ぶぜ…外れるんだよな?後でちゃんと外れるんだよな?このまま腕と一体化とかされたら困るぞ?


とりあえず料理をすることにした。今日集めた生物兵器の肉「私はそれは食べないよ?」は冷凍保存しておき、ヤミイチから買った色んな高級な具材をふんだんに使ったチャーハンを作ろう。


アミューに具材を細かくしてもらい、どこで手に入るかもわからん高級な米という食材と細かくした具材を一緒に炒め完成である。


「うまー!チャーハンうまー!」

「ああ…美味いな…」

(そりゃ美味いだろうさ、今日の俺の装備と同じくらいの価値の飯だからな…)


俺は今後の金策と物資集めをどうしようか真剣に考えなくてはならないようだ…


そしてご飯を食べてると姉御からメッセージが来た。


『今日の依頼ご苦労だったな。しかしブレイカー如きに骨折られるとは情けなすぎるぞ。反省しろよ?』


…やはり見てたんですねすみません。


『まあ本題はこっちだ。ヴィクトール関連の依頼なんだが少しの間凍結だ。骨が折れてなくてもな。後で他の仲間にも連絡するが前線がそろそろ【終戦期】に入る。前線の探索はやめとけ』


あー、終戦期か…しばらく稼げんなどうしたもんか…


「終戦期って何?」


一緒にメッセージを見てたアミューが聞いてくる。これは人間が勝手に名前を付けて呼んでるだけなので当然知らないよな。


「前線の兵器達の戦いが終わるんだよ。少しの間な」

「どうして終戦期だと探索できないの?」

「それはな…」







この世界には四季とは別に、前線の【終戦期】【開戦期】【乱戦期】がある。


【終戦期】は兵器達の戦いが一時的に終わり、戦場に転がったそれぞれのリソースの回収に勤しむ時期だ。生物兵器達は各地に散らばった生き残った兵器達を、機械兵器達は壊された兵器の残骸を回収する。


この時期は前線に普段見かけることのない、桁違いの強さを持った兵器達があちこちに現れる。とあるウォーカーは前線の突入口に立っただけで肉団子に変えられたくらいだ。その兵器達は各々で意思があり、リソースの回収作業を指揮していると噂されている。


さらにこの時期は兵器達はほとんど争わない。むしろリソースの回収作業までお互いに協力してやっているという(姉御情報)。効率よくリソースを回収して次の戦争に向けて準備をするというのだ。


【開戦期】は機械兵器サイド、生物兵器サイドがきっちり分かれ、お互いを殺し、壊し合い始める時期だ。この時期は兵器達の統率がしっかりしているため、探索するのは…まあ出来なくもないがオススメはされていない。


開戦期から少し経つと【乱戦期】に入る。乱戦期はもう兵器達がぐっちゃぐちゃに入り乱れ戦っているので隙間ができやすく、探索はしやすい。しかも機械兵器達の残骸も多く見かけられるようになって稼ぐのにもってこいだ。


弊害としては溢れた兵器がたまに前線の外に巣や工場を作るところか。ミドリノシェルターのマンティス種の巣や、実は俺のこの広い工場のような拠点も溢れた機械兵器達が作った工場を乗っ取りそのまま流用してたりする。






兵器達の戦争が永遠に終わらない理由がここにある。つまりどちらも戦いを終わらせる気がないのだ。戦況がどちらかの圧倒的有利な状態になっても絶対に相手の本丸は落とさない。


この性質は過去に兵器達を作った博士同士が親友であったことからだろうと言われている。仲悪く争いになったとかではないのだ。【切磋琢磨】しあってこの世界を作り出したのだ。 本当に迷惑な話である








アミューは黙々とこの話を聞いていた…モグモグとチャーハンを食べながら…俺の分も少し分けてあげたよ足りなそうだったもん。


ってかアミューも生物兵器の本陣に帰らなければならなくなるのだろうか!待て待てそれはないだろ!泣くぞ?俺ギャン泣きするぞ?


「アミューはその…帰巣本能?的なのはないのか?その生物兵器達が集まる場所に戻りたいか?」

「私?私は戻らないよ?サインとずっと一緒」

「…そうか」


良かった…ってかそうだよな。アニマシェルターの連中はそもそも生物兵器飼ってるし、終戦期になっても別に前線外には兵器達は普通にいる…


俺は暖かい気持ちになって半分になったチャーハンを食べて寝ることにした。今日のウォーカー部の通話は不参加にしよう。メッセージだけ【生存報告】を入れて…小腹が空いた…

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