38.ミートゾーン 突入

【サイン視点】


前線のミートゾーンと呼ばれる森を先に進んでいく。ミートゾーンは木が多いので落ち葉や乾いた枝に気をつけて歩かなければいけない。


俺は後ろを見ると、ヴィクトールもリビルも俺が足をつけた場所を丁寧に踏んでついてきてくれている。助かるわー。アミューはどこにいるかわからない。多分一番後ろのリビルの後ろにいそうだなぁとは思っている。


奥の方から重厚な足音が聞こえてくる。恐らく生物兵器だ。1人なら隠れて後ろから攻撃を仕掛けるところだがこの人数で隠れるのは難しいだろう。


「リビル、恐らく前にいるのはミノタウロシだ。大きさは250(cm)くらい。頭蓋が硬いから頭じゃなくて胸辺りを狙え」

「はい」


リビルが銃を構える。俺とヴィクトールはリビルが仕留め損なった時のカバーに入る姿勢だ。


そして少し待つと俺たちの前に大きな、頭から角が生えて顔が獣になった、体ムキムキな生物兵器が姿を現す。


姿が見えた瞬間にリビルが銃を発砲する。弾は俺の言った通りの胸に着弾した。弾は綺麗に貫通し、心臓も抜いたろうがまだミノタウロシは死んでない。死ぬ前に一人でも多くを殺すためにやつは突っ込んできた。がリビルの前蹴りで後ろに飛ばされそのまま立ち上がることはなかった。


「やるじゃん」

「おおー、凄いじゃないかリビル。俺が見込んだだけはあるな」

「いい蹴りだったと思うよ!」

「て、照れますねぇー。銃の性能が良かったからですよ」


マジでリビルいいやつだな!心の中では【君(くん)】を付けてあげよう!今日から君はリビル君だ!


「じゃあ剥ぎ取りをしようか。ミノタウロシは太腿と肩肉が人気で高く売れる部位だ。それ以外は残しても構わない。死体は他の生物兵器が片付けてくれるしな」

「わかった」


リビルとヴィクトールはバッグからナイフを取り出し肩と太腿の肉を切り落とし袋に入れバッグにどんどんしまっていく。


「今日はカゴじゃないんだね」

「集めるのが肉だしな。カゴはバックに入りきらんものを拾うときに使うんだよ」

「ふーん」


アミューが俺の後ろから突然話しかけてきてびっくりした…透明だとやっぱり俺にはどこにいるかわかんねぇよ…


集め終わったところで少し近めの所から銃声と悲鳴が聞こえてきた。


拾い終わったリビル君とヴィクトールについてくるように指示を出し様子を見に行くと、7人のウォーカー達がミノタウロシと戦ってるのが見えた。3人はすでに死んでしまっているようだ。地面に身体が半分ほど欠けた状態で転がっている。


(…ああ、その装備でミートゾーンは無理だな)


ウォーカー達の武器はどう見てもボロボロだった。あれじゃすぐに壊れるし弾詰まりも起こすだろう。実際に生き残ってる奴らも、薬莢の排出に手こずっているようだった。


少し眺めていたらミノタウロシの前蹴りでまた一人上半身がミンチになって倒れた。さっきのリビル君のが威力あったな。まあ、俺のパワーアーマーのおかげだけど?(ドヤァ)


最終的には生き残りが2人になったところでミノタウロシが倒れた。あの生き残った2人の勝利だ。心の中で拍手送り俺達は移動する。


「…助けに行くかと思ったぞ」

「えっ?なんでだ?」

「俺もです。まさかずっと見てるだけとは」


ヴィクトールもリビル君も、他のウォーカーを俺たちが助けに行くと思ってたらしい。


「助けねぇよ。前線の戦いで死ぬのは自己責任だ。仲間なら別だけどな。それにあのミノタウロシがこっちを捕捉していた場合、アイツらを殺した後に後ろから襲いかかってくる場合もある。そうなると前からも後ろからも敵が来て挟撃される可能性もあるんだ。だから戦いがどうなるかを確認しただけだな」


「ああ、リスクを避けるためってことか。納得した」

「俺も納得しました」

「ちなみにウォーカーが生き残った場合も戦闘後の移動ルートを確認する場合もある。こっちも後ろから襲われるかもだからだ。今回はあの程度装備で俺たちをどうこうできないだろうし、もう戦える状態にないからそのままスルーの判断だ」

「へぇ、サインはそんなこと考えてたんだ。前の探索の時もウォーカーの戦い見てたけど理由は知らなかったよ」


俺の中では基本だな。もし覗き見が戦闘中のウォーカーにバレたとしても、その場から早めに離れれば深追いされることはほとんどない。


また移動しているとリビル君がソワソワし始めた。何か気になることでもあるのだろうか…


「リビル、どうした?」


ヴィクトールもそれに気づいたのかリビル君に聞いてくれた。


「あの…ふと気になったんですがこの情報収集機、なんで左目だけカバーされてないんですか?フルフェイス型にすればいいのにと思いまして…」

「ああ…そうだな…それは肉眼で直接見ることも大事だからだ。情報収集機の索敵機能は優秀かもしれんが、人間の肉眼には勝てないってことさ」

「え?…すみません。意味がわからないです…」


…まあ、わからんだろうな。俺も言葉で表現するのは難しい。


「えっと、わかりにくいかもしれんが、頭を露出させることで…感覚が拾いやすくなって?勘…的なものが働くようになるんだよ。強いやつらはみんな顔出して前線歩いてるぞ」

「ああ、俺はそれはわかるかもしれん」

「…なんだかコミックの世界の話な感じがします。ヴィクトールさんがいなかったら信じられませんよ」


リビル君が難しい顔をしている。がわからなくて当然だろう。正直俺も気配とか勘とかはよくわからんし。


「実戦を多く経験すればいずれはリビルにもわかるさ。私も最初はあやふやだったからな…」


ヴィクトールにはきっとわかるのだろう。さすが最強か…


「私もわかるよー!敵がどこを狙ってるかとかもね!銃口も見えれば避けるのもよゆー」


そういやアミュー…ミドリノシェルターで戦ってた時、アーマードの弾全部避けてましたね…


俺達の雑談で位置がバレたのかカサカサと近寄ってくる音が聞こえ始めた。恐らくチキンナイトだろうなぁ。


多分4か5体か?


「チキンナイトだ。どうする?ヴィクトールがやるか?大きさは人間くらい、動きが速くて、両手の爪で攻撃してくる。ちなみに首を攻撃するのが楽に仕留められていいぞ?肉質も落ちにくいしな」

「俺もやるか。素手でいいか?パワーアーマーが汚れるかもだが」

「いいぞ」


ヴィクトールが両手を上げ、格闘のポーズを取る。もう強そうだ。負けるビジョンが見えない。


草むらから予想通りチキンナイトが飛び出し前に立っているヴィクトールに襲いかかる。爪攻撃を躱して首にチョップを叩き込むと骨が折れる音と共に沈んだ。


後続もドンドン現れるがヴィクトールに攻撃をいなされ、同じように首チョップで丁寧に首を折られていく。


結局7体も出てきたか…少し喋り過ぎたかな?

まあ成果としてはいいんだが少し危なかったか。


一番美味いのは足の肉だ。骨ごと足を切り落とし袋に入れ、バッグに入れていく。


「はぇー、ヴィクトールさんカッコいいです」

「意外と対人技術も役に立つもんだな」

「銃撃つよりもそっちのが上手い人も実際いるぞ。武器無しのウォーカーもいるし」

「…なんか俺、シェルターに籠もってたら知らないことだらけだったんすね…外の世界を知ることの大事さに気づきました」


リビル君がしみじみとしている。

っ!俺の服が突然引っ張られた!


「私も戦うー!」

「…じゃあ次はアミューだな」


だから突然は心臓に悪いですってアミューさん…狙撃されたのかと思いましたやん…



その数十分後、アミューが透明化を解除して、オークンの群れに突っ込み暴れ散らかして大量の肉片をバラまいてる光景を眺めながら3人揃って呆然とした。


オークンは顔や体が丸っぽくて、厚い脂肪が衝撃や銃弾を止めてしまうので耐久性が高いのだが、アミューの暴力の前には無意味なようだ。


そして暴れ終わってスッキリした顔のアミューが帰ってきた。身体が臓物や脂肪まみれだよ…

そして俺はアミューに言わなくちゃいけないことがある…


「アミュー…そんなに強く殴ったら肉が回収できないぞ…」

「しまった!」

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