31.シェルターに喧嘩を売ってみよう その3

【サイン視点】


「ぬーん、意外とかしこい職員じゃったな…」

「俺達のログを頭ごなしに否定しない偉い職員だったな。凄い怪しんでたけど」


ロウさんは力を抜いた状態のままほとんど口を動かさずに喋っている。俺はそんな芸当できないんで普通に喋る。


「今での経験上、こうやって裏に入ったやつはワシ達の情報を調べて帰ってくるから大人しく賞金を払っちまうんじゃ…」

「嫌な経験上だな…」


そして待つこと十分くらい…ドアが開く。


「…」

「…」


おーすげー、あの生きる伝説の兵隊、ヴィクトールさんが出てきたぞ。なんでこんなシェルターにいるんだ?もっと前線に近いシェルターにいるはずの人なのに。あと多分後ろに控えてるアミューの存在にも気づいたな。今チラッと俺の後ろ見たし…


「…で?賞金払えばいいんだろ?さっさと帰れ帰れ」

「…なんでお前がここにいるんじゃよ…」

「お前とは別件の用事でだ。お前こそわざわざ問題起こすためにこのシェルターに来たんだろ…性格わりぃな相変わらず」

「ロウさんってヴィクトールさんと知り合いなんだなぁ。まあ意外じゃないか」

「いつも邪魔しおるからのぉ…」

「邪魔はお前だ。普通に仕事してる奴に迷惑かけようとするお前がな!」


それはそうだ。正論でしかない。


「後ろの他人事にしてるようにしてるお前。お前も俺は知ってるぞ?」

「なんでだ?いや?俺は何もしてないっすよ?」

「少し前にうちの若いの…やったろ?」

「あー、やったっけなぁ。3人だったかな?でも先に銃向けたのはそっちなんだから。俺がとやかく言われる筋合いはないな」

「…その通りだ。ウチのものが悪かったな。」


それに関しては本当は事故みたいなもんだが、アミューの責任は俺の責任でもあるので俺が泥を被ろう。にしても凄いな。アレもちゃんとバレてたんか。アミューさん?俺の服を引っ張らないでください。


「…さっきも言ったが金は払う。だからさっさと帰れ。その後ろのを連れてな」

「くそう、上手くいかんかったのぉ〜」

「賞金貰って落ち込んでんのはロウさんくらいだぞ」


ロウさんの車イスを押して帰った。

アミューは俺の服をずっと摘んでいた。




【ヴィクトール視点】


2人…いや、3人が帰った…気配が遠くなるのを待ってから机を叩く…壊れてしまったやり過ぎた…


「ヴィクトール…さん…」

「…すまんなリビル」

「いえ…」


いったん深呼吸する…


「さっき言ったアイツのせいでシェルターを出禁になったってやつは俺の親友だったんだよ…」

「!」


正義感が強いやつだった。そしてウォーカーが死ぬほど嫌いだった…それ故にロウと激しく揉め、結局シェルターから追放され、ウォーカーの真似事をして生物兵器に囲まれて死んだ…


「しかしなんでしたっけ?あのウキウキするみたいな名前の集団ですよね?別に我々が潰しても困ることではないのでは?」

「【ウキウキ♪フロントラインウォーカー部】だな。舐めないほうがいい。ふざけた名前だがあのジジイみたいなバケモンもいれば、敵対したくねぇウォーカーもいる…から不用意に手出しできねぇんだよ。昔俺もそこのリーダーに出会って半殺しにされたことがある…ああ、そうだ。聞かねぇだろうがそのリーダーに苦情は入れてやろう」

「ヴィクトールさんが半殺しって…」


俺は端末に番号を打ち込んでいく。

『あなたは見込みがありますからね。経験を積めばいい人材になりそうですし、特別に見逃して差し上げます?』

俺を痛ぶり、遊び、見逃し…連絡先だけ置いていった極悪幼女に…


「…よう」

『なんか用か?私は今忙しいんだが?』


今は猫を被ってないので喋り方も粗暴だな…


「わかってんだろ。またお前んとこのジジイがシェルターに来たぞ。いい加減やめさせろ」

『私のとこは自主性を大事にしてんだ。それに来たって言ったって用は【賞金兵器の賞金の受け取り】だけだろ?何も問題はないはずだが?』


…そう、問題がない。だからタチが悪いんだよ!


「…はあ…そうだな。問題ない…問題ないが一言言いたかっただけだ…」

『そうか。まあウチの奴らがお前に色々迷惑かけてるのは一応悪いとは思ってるんだぞ?だから1つお前の仕事を解決してやろう…【卵の件】は解決済みだ。お前が心配することはねぇよ。大人しくしてただろ?』

「…アレか」

『じゃあな』


通話が切れた。あの気配はやっぱり生物兵器だったか。しかも卵の話なら…ダイナロイドだな恐らく。あの暴力の化身みたいなやつがあんなにも大人しくなってるとは…いったい何があった?ってそうか!


「!」

「?」


俺は据え置き情報端末でログをダウンロードして開いた。

3人の新人が後ろにいたウォーカーに殺されたログだ。

ログを開いて新人3人が強化散弾銃で飛ばされたシーンを確認する…やはり…


強化散弾銃の発射地点がズレていた。

あのウォーカーは自分がやっていたかのように言っていたがつまり…


(嘘か…)


最初は強化散弾銃の衝撃でログがバグったのかと思っていたが、後ろの生物兵器がこれをやったのならこのズレに説明がつく。


「ふー…俺が頑張って駆けずり回ってた件が解決?とは言い難いがそっちも片付いたようだわ」

「あの?何の話ですか?」

「秘密だ。すまんな」

「はい…」

「しかしウォーカーはやっぱゴミだわ。人の人生をなんだと思ってるんだよマジで」

「ヴィクトールさんもそう思うんですね…」

「ああ…リビル、ウチに来ないか?お前みたいな冷静に物事が判断ができるやつはウチに欲しい」


リビルの顔が笑顔になる。


「是非よろしくお願いしたいです!」


はぁ…俺にもっと力があれば…

昔を思い出す…まだ足りない…

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