その他大勢の物語

りゅうちゃん

第1話 英雄のいない村

 ここはどこにでもある、田舎の山村。人口は多く、町とは言えないが、村としては大きいほうだ。周辺にも大きな村があり、土地は痩せているが、この地方名産の珍味があり、安くは無い値段で買い取ってくれるので、裕福まで言えないが、それなりの暮らしが出来ている。ただ、辺鄙な場所にあるので、町からの行商も数か月に1度しか来ず、それ以外の交流はほぼ無い。このような田舎を嫌がって出ていく和歌も荷がいるかと言われれば、稀であり、この生活が当たり前と思っている。それには、この国では15歳を過ぎて才能が有る人間は王家からスカウトが来て、王都に移り住んで行く。それなりの人間も他の貴族からスカウトされて、ここにいるのは残りかす。と言っても、貴族含め村を出ていくのは1割程度。自分が平凡であることを自覚することは出来るが、劣等感に苛まれるほどではない。そして、この村の生活を受け入れていくのだ。

 そう言う私も、その他大勢の一人だ。

 

 いつもと変わらない風景。朝からのんびり野良仕事をして、仕事帰りに、村を照らしながら沈みゆく夕日を見ていた。だが今日は村が騒がしい。その方向に目を向けると巨大な影が。まさか山から魔物が下りて来たのか。

 村の北側の山脈は、魔の山脈と呼ばれ魔物が住むと言われている。極まれに冒険者と呼ばれるものがこの山に挑んでいると話には聞いていたが、実際に見たことも無く、おとぎ話の様なものだ。魔物以外にも狂暴な獣も多く、この村では山に入るものは居なかった。そして、魔物が山から下りてくることも。今日までは。

 

 私は鍬を片手に、町へと駆け降りた。






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