第5話 小娘に、しつけをしたつもりが…
悪い顔を普通に戻して、私は小娘…ハーディロゼ・ルクスディオンを見た。
モナルフィの陰から、こそこそ私を見ている小娘を観察する。
「顔をあげて、こっちをちゃんと見て」
青いドレス、腰からスリットが入っている…東の国のデザインね。
胸元が少し開いていて、細かい金糸、銀糸の刺繍がちりばめてある。
子供用と思うほど小さいけど…衣裳室にあったのなら大人用なのね。
それでも胸元は盛っているわね。
銀髪を無理に巻き上げて、襟足を見せている。
この下手なセットを誰がやったのだろう…ムダ毛が遊んでいる。
逆に初々しいともとれるか…
顔はまだ幼い。頬の肉付きからそう感じる。
しかし、目元は、少しきつい。
化粧のせいかもしれないけど、私が相手でなければそういう性格なのかもしれない。
唇は薄いけれど、口紅のせいか、妙に艶を持っている。
見学とはいえ、客の前に出す…私と一緒なら問題ないでしょう。
「お客様には、手を出させないけど、ここはそういう所だから、いいわね?」
「そういう所?」
「知らない顔はしないの。ここは客が女を買って遊ぶところ」
人の娘は、知っている事を知らないフリをする事が多い。
そのドレスはどう見ても男を誘っているし、着けている下着の防御力はゼロだろ。
「…す、すみません。そうですよね、はい、大丈夫です」
やっと、私に話してくれた。
捨て猫が、やっと手からエサを食べてくれた感じがする。
「それじゃ、行きますよ、ロゼ」
エサを食べたなら、次はしつけかしら。
私は、彼女の手を取った。
廊下を歩きながら私は来館客リストの内容を思い出していた。
見学はともかく、宴会のお客に対しての私の挨拶は大事な仕事。
開館して、まだ間もないので軽い遊びの段階のはず。
それでも接客した娼婦との相性、娼婦の数、もちろん料理や酒の進みは自ら確認をする。ここ数日は特に水龍祭でお客様が多い。大金が入るからと言って取りこぼしは許されない。
予算がいくらだったか、覚えていないけど、簡単に達成できる数字ではなかったはず。
私は扉を軽くノックして中に入る。
「いらっしゃいませ」
中を一瞥する。見学のための面倒なチェックを思い出していた。
一応、見学に無難な宴会かを判断しないと…ロゼに副都市長に言いつけられかねない。
もっとも、言えない経験をさせる手もある……これは、もしもの場合の話。
「では、お楽しみくださいませ」
手短に挨拶をして長居をせず、私は静かに扉を閉めて部屋を出た。
この宴会は、やめておこう。この時間で、あのはしゃぎよう。空気を変えたくない。お酒は絶やさないようにしないと…
廊下でロゼを見ると、眼がテンになっていた。どうやら、扉の隙間から中を覗いていたらしい。宴会は別に眉をひそめるようなモノではなかった。
お客様は既に入浴済みだったのだろう、部屋着の前が乱れていただけ。
それに合わせて娼婦もドレスを脱いでいただけ。
(至って健全な宴会だわ)
私はポンっと、ロゼのドレスの胸元に手を当てる。すると、きゃっと声を小さくあげて後ずさりをして胸を腕で守っている。
「触ったくらいで、声を出すなら見学は到底無理だと思うけれど」
少し私は呆れていた。
17歳でしょ…なら、ここでしつけをしてもいいわね。
私は、いきなりロゼの手首を掴んで、自分のドレスの胸元に押し込んだ。
そして彼女の手を手で覆って自らの乳房を無理に揉ませる。
「ここの女の子は、これでお金を稼いでいるのよ」
私はロゼの手を逃がさない。
「わかる?これも自立なのよ」
そして指の間で挟ませてみる。こんな事を廊下で…これは、いいわぁ…
ヴァンパイアの血が久しぶりに騒いでしまった。
ロゼの焦っている顔を喜びでゆがめて見たいと誘惑にかられてしまう。
木の棒みたいな娘にこんな感情を…とても新鮮だわ。
「宴会の見学をやめて、私とベッドに行かない?…知らない世界を教えてあげる」
私は優しく彼女を包み込むように囁いた。
ロゼの顔は真っ赤に染まる。
腰に手を回すと、腰には力が入っておらず、もう崩れ落ちそう。
また、お漏らしをするかもしれない。
ただ、それは恐怖ではないけれど…そしてロゼは震える声で答えた。
「いえ、だ、大丈夫です。け、見学をさせてください」
そう言うとロゼは私の回した手を外して、辛うじて自力で立った。
(私の誘いを蹴った?)
私の血の高ぶりが一気に消えていく。
普段なら、気だるい余韻を味わうのだけど…一切無い。
私は踵を返した。
ギリッと少し歯噛みしたけど、笑みも浮かんでいる自分に気が付いた。
ロゼの事は、よくわからない…でも、おもちゃとして楽しめそうだわ。
「じゃ、次の部屋ね」
ドレスの乱れを直すと私は次の部屋へと歩き始めた。
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