第4話


 最後に行った夜会からしばらくして、無事に結婚式を終えた。


 式を終えてから一応、形式的にフレディの伯爵家に住み替える。部屋も彼と同じ部屋になるらしいが、あまり実感はない。続き部屋となっている隣の部屋に、私の私物が置けるから。もちろん小さなベッドもある。


 入浴を終えて、薄手の服のままフレディの部屋に来る。空いていたソファへ座ると、目の前に用意されているカップとティーポットがあった。その一つを取って紅茶を注ぎ、カップに口をつけ喉を潤した。


 少しして、フレディが部屋に入ってくる。


「セラ、ここにいたんだね。隣で寝るのかと思った」

「ベッドはあるけど、こっちを普段使いするって聞いたわ」

「そうだけど……」


 チラッとフレディがベッドを見る。つられて私も視線を向けた。


 それなりの広さのベッドは、シーツがピンっと整えられている。二人くらい余裕で寝られそう。心配することは無さそうなのに、フレディは窺うように私を見た。


「セラスは平気なの?」

「ええ、何も問題はないわ」

「そう…なんだ」


 少し考えて、フレディが隣に座る。「僕ももらっても?」と聞くから、ちょうど手元にあるし、と淹れてあげる。


 彼は一口飲むと、私の肩に寄りかかってきた。頬に当たるフレディの髪がくすぐったい。「どいて」と軽く肩を動かしたけど、どく気配はない。


 仕方がないから、仕返しとばかりに私もフレディの頭に頭を乗せる。実際には乗せるというより、押し付けるって感じだから、ギューっと強く力を込めた。


 そしたら急に、パッとフレディが頭を外した。そのせいで支えを失った私は、思いきり彼の膝の上に倒れてしまう。


「っうわ! びっくりし……!」


 咄嗟に肘をついて顔だけフレディの方へ向けたら、触れるだけのキスをされる。驚いて固まる私に彼は、ククッと笑った。


「!」


 そのまま肩に手を回した彼は、膝下にも手を入れて横抱きに抱えると、ゆっくり膝の上に座らせた。戸惑う中、柔らかく微笑むフレディが私の手を取って指先を絡めてくる。


「ねえ、セラス。さっきの『問題ない』ってどこまで?」

「どこまでって……」


 繰り返して、徐々に顔が赤くなってくる。その言葉が庭に行く、とか食堂に行くって話じゃないのは私でもわかるから。


 自然と言葉が出なくなって黙り込む。間を置いて、フレディがフフッと笑った。そして頬に口付ける。不意打ちのそれに、つい反応した。


「! ちょっと」

「セラってキスすると目が大きくなるよね。小動物みたいに」

「フレディの方は急に距離を縮めてきたわね」

「式で許されたから……それにさ、浮かれてるんだよ。ほら、君に僕だけが特別だって言われたし。覚えてる?」

「どうかしら」

「覚えてないなら、今言ってくれていいよ」


 ほら、と急かされて口を固く閉じる。当初の予定では白い結婚だろうと考えていたはずなのに、まさかこんなことになるなんて。


 フレディが耳元で私の名を呼ぶ。


「セラス」

「……」


 黙ったままでいると、今度はそれを逆手にとって、頬にキスし、瞼にキスし、段々と首筋まで下りてくる。顔にどんどんと熱が集まって、緊張する。さすがにもう黙ったままでいられなかった。


「……~~フレディ!」


 離れようとしたけど、逃がさないとばかりに肩を抱く手に力が込められる。咄嗟に顔を向けたら、目の前の幼馴染みが、もう幼いときの少年ではなかったことを知った。


「そろそろ言う気になったかな」


 柔らかく目を細めて、薄い笑みを湛えたまま頭を傾ける。


 「ん?」と聞きながらも、その瞳は答えを知っているみたいで。


 私は、またキスされたら困るから、と自分に言い訳しながら彼の耳元に顔を寄せて、微かな声でその言葉を伝えた。







fin.

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うっかり結婚を承諾したら……。 翠月るるな @Ruruna25_

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