第6話 地獄めぐり―引き継がれる力―
【あらすじ】
初めての悪魔退治、清水は朝にシャワーを浴びていた。時がゆっくりと流れ止まった瞬間、強制シャンプが起きる。場所は上野の不忍池。そこは文字通り地獄絵図、血の池地獄だった。
【本文】
「フン・フン・フン~鹿のフン♪ヘクシッ!」
最近の清水は朝にシャワーを浴びるのが日課だ。
「シャワーは肌の~マッサージングっと」
清水はまだ若い。科学的根拠のない偶然SNSで流れていという理由で、
コスメや美容にトライしていた。
しびれを切らした母が言う。
「蒼、学校遅れるわよ。今度は何やってるの?」
「ママ、今日は学校行けないよ」
「どうしてそういうこと言うのよ、先週もそうやって休んだでしょ?」
「それは違うわママ。私は今日、このおでこにできたニキビ君と語りたい。
なぜ君はニキビなのか? なぜ一番映えるところにできてしまうのか問いたいのだ」
「ハイハイ、学校に休み入れなきゃいけないってことね。成績落としちゃだめよ」
「大丈夫、右目閉じて答案するから」
「シャワーの水はお風呂にためときなさいよ」
「はいはい、ハイは一回だけ~」
霊力調整後の清水は心身共に整っていた。
「丁寧な暮らしの中で整えてく、それが私……ん?」
少し清水は違和感を感じた。時間が止まってゆくような感覚だった。
「これか……地獄めぐりの始まりだ!」
ジャンプ先には岩城と剛田が既にいた。
「? 譲さん、なんかこう魔界感がないですが……」
岩城の代わりに剛田が言う。
「蒼、黙って一歩踏み込んでみな。名前は出すなよ」
清水は一歩踏み出した、と同時に戻ってきた。
「うわぁ、地獄絵図。不忍池が血ノ池地獄に変わってる!
しかも大きなミミズっぽいのが太麺パスタのように踊ってる。
あんなキモいのと戦うの? 私……おっ、お二人のために後方支援頑張ります!」
清水は後ずさりを始めた。
岩城と剛田は清水の肩に手を当てて言った。
「残念ながら対地中戦はヨハンである蒼が前線だよ、
今回はミミズと同じ動きをすやる奴だから
パウロである翔は地面を叩いて奴らを地表へあぶりだし、
僕がシールドを使って切断してゆく」
「ほれ、さっさと行け!」
剛田は清水を突き飛ばした。
「地獄の側へ踏み入れたら人間界の名前で呼んではだめだ、後々面倒なことになる。
それだけは守ってくれ。心の中でとなえてもダメだぞ!
それじゃあ、着任開始」
三人は地獄の側へ踏み込んだ。
「はい、パウロ。ハンマーだよ」
――霊脈協会謹製の破魔道具、アイアン・ハンマーはその操者の握力と霊力量に比例して霊力が蓄積され、衝撃と共に解放されるチャージ&ストライク方式を採用している。その威力は操者次第だ。
「お前、大丈夫か?ヨ ハン」
「ブルーアイがうまく働かない、次の未来が見えないよペテロ」
「それは地獄にいるからだ、要所要所で見えるらしいから気にするな、
意識を『次』に集中させるんだ」
ヨハンは逃げたい気持ちでいっぱいだった。
「鉄が焼けるのと硫黄っぽいなんかやなニオイ。ほんと、もどしそう」
「ペテロ、こいつダメな意味で場酔いしてるぞ」
「よし、ヨハン僕と同じラインまで下がれ。パウロ適当に一撃お見舞いしろ」
「ヨハン、ところでこのハンマーどう使うんだ?」
「グッと握ってバーンだよ。
なんか嫌な予感だから私たちとは、かなり離れてやってよね。
あの池の中央ぐらいまで進んでからってことだよ」
「あのミミズのど真ん中を俺一人で行けってお前」
パウロはニヤリと笑い走り出した。
「生まれてこのかた――いろんな奴らにイラっとさせられてきた。
お前らも一体何がしたいんかわからんがその禍々しさに鉄槌くらわせてやる!」
そう言って剛田は空高く、五階建てのビルよりも高く跳躍した。
それに呼応してミミズたちは剛田めがけてあがっていった。
「まずは地上のおめーらからだ、失せろ!」
剛田が振り下ろした直後、
光でできたケルト十字が出現し爆音とともにミミズたちは爆ぜた。
煙の中から現れた剛田はハンマーを上段に構え、強くグリップし始めた。
剛田の霊力に呼応するようにハンマーは大きく金色に輝き始めた。
ヨハンはようやく、次をとらえた。
「ペテロ、二人のシールドじゃないと次のは、私らまで吹き飛ばされてしまう。
位相変換ペテロ、シャローシールド」
ペテロは自分の肩をヨハンに寄せ、互いの小指を絡ませながらシールドを展開した。
「霊力同調、ハードシールド」
パウロを見つめるペテロは思った。
アイアン・ハンマーは金色に輝いたりしない、明らかにスペックを越えている。
それにあの左手の甲に光る十字の模様は一体……
「そのツラ、拝ませろミミズども」
剛田がつぶやいた瞬間、アイアン・ハンマーに宿っている
前任のパウロの残留思念が流れ込んできた。
「えっ!……裏コマンド?」
剛田はグリップをさらに強め叫んだ。
「ティア・インパクト(星砕きの槌音)」
インパクトの瞬間、先ほどよりもはるかに大きいケルト十字が出現し、
轟音と爆風が地獄の大地を蒸発させ眩い光が包み込んだ。
アイアン・ハンマーは構造限界を迎え、灰と化した。
「パウロはどこだ!」
「もうすぐここにふってくるよ」
剛田は爆風で二人のそばに落ちてきた。
「よっし! 着地十点・満点だ!
よぉ、どうだった。これでお終い?……でいいのか」
「ああ、終わりだ。今、霊脈を作っている」
ペテロは身に付けているものを媒体にして霊脈を構築し始めた。
「やっと帰れる、もう一回シャワー浴びないと」
ヨハンはパウロから、お前が一番働いてないという目で見られている気がした。
「何見てんのよ、私なりに頑張ってたでしょ?」
パウロはヨハンの目を見て言った。
「ヨハン、三人の勝利だ。誰が欠けてもだめだった」
「らしからぬ感謝のお言葉……ありがとう」
「よしっ、三人分の帯域は確保した。帰るぞ!」
ヨハンとパウロはペテロに触れた。
それを確認したペテロは霊脈を二回タップした。
バシュっという音と共に彼らは各々の終端までジャンプした。
気が付けば清水はまたシャワーを浴びていた
「おっ、私スッポンポンだ」
清水は時計をチラッと見て笑った。
「翔君は、意外にいい人だね」
そう言って鼻唄を歌い始めた。
「フン・フン・フン~鹿の……
だめだ、メロ歌詞が頭から離れない! 良かった~今日、学校行かなくて」
――そのころ剛田はおやじさんの所にいた。
「翔、聞いたぞ派手にやってんだってな」
「はい、あの~壊れちゃいました」
「そんなん分かってるよ、現役の頃は毎度新しいやつを用意したもんだ。
気にするな」
「すみません」
おやじさんは振り向いて剛田をじっと見た。
「どうだった、楽しかったか?」
「はい、ハンマーから光が出たかと思ったらもの凄い威力で爆発して、
二度目に振り下ろそうとした時に声がしました。裏コマンドって何ですか?」
「ほう、そこまでいけたのか……次ここに来た時に渡したいものがある」
「何をですか?」
「その時までのお楽しみだ、ほらもう帰れ。忙しいんだこっちは」
おやじさんはそう言うと、剛田をラボから追い出そうとした。
「あの、おやじさん。他にも声が……」
「何だ?」
「ええっと、『気にすんな、それは俺が……』とか何とかでした。失礼します」
おやじさんは火野のことを思い出してつぶやいた。
「翔、それは俺がじゃなくて『俺の役目』……だ」
突然、机に置かれたピンッと張ったフィルムから声がした。岩城からだった。
「どうした譲? さっき翔が来てたぞ」
「おやじさんに相談に乗って欲しいことがあって……」
「何のことだ」
「翔の手の甲から浮かび上がる光の十字の模様についてです。
霊脈史には明記されていませんでしたが、
複数の史料に散らばって記録がありました。
意図的に明記を避けた形跡があります」
おやじさんは黙ったままだった。
「おやじさん、『神の骨』って何ですか?
翔と関係があるように思うんです。
おやじさん――聞いてます? おやじさん……おやじさん……」
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