コミック書評:『ジャクソン6』(1000夜連続4夜目)

sue1000

『ジャクソン6』

――80年代アメリカ、光と闇で交錯する兄弟の絆の物語


連載開始後、業界の話題をさらっている新作コミック『ジャクソン6』は、1970~80年代のアメリカ──黒人音楽シーンの黄金期と裏社会が交錯する舞台で、腹違いの“長兄”ルーと末弟マジックを軸に紡がれる成り上がり譚だ。ファイブ・ジャクソンズ──ジュリアス、モーゼス、ラリー、トーマス、そしてリードボーカルである末弟マジックのジャクソン5兄弟が、ショービジネス界で華々しい伝説を作り上げていく。そして彼らの成功を陰で支え続けてきた"存在しない兄"ルーの視点・活躍が、新鮮な重厚さを作品に加えている。


物語は、5兄弟のバンドのデビュー前、ルーが極秘裏に彼らのデビューのために活動するシーンから幕を開ける。ギャングとの抗争や、弟たちとの決して明かすことのできない絆──それらがスリリングに描かれ、読者は否が応でもルーや兄弟達の“生きざま”に引き込まれる。彼がマフィアと結ぶ危険な契約は、やがて弟たちのステージに影を落とし、バンドの夢と家族の絆を天秤にかける緊張感へと繋がっていく。


第1巻で特に光るのは、“表と裏の対比”を巧みに活かした演出。ステージ上で観客を陶酔させるマジックたちの鮮やかなライブ描写と、ルーの裏社会での争いが交互に挿入され、ページをめくる手が止まらない。抑制的ながらリアル、華やかなステージ裏に蠢く闇──人種差別や薬物、警察の圧力といった当時の社会問題が、エンターテインメントとしてではなく“生きることの苦悩”として響いてくる。


キャラクター造形にも深みがある。"表の主人公"マジックは、ステージ上でのカリスマぶりと家庭内で見せる弱さのギャップが魅力的。長男ジュリアスは保護者的だが、内に抱える葛藤がほのめかされ、次男モーゼスや三男ラリー、四男トーマスにもそれぞれの傷跡と夢が存在感を放つ。一方、ルーは兄弟への愛情ゆえに冷徹な判断を下し、“裏の主人公”としての矜持と哀しみを背負う。彼の選択が次巻以降、どのように兄弟の運命を分岐させるのか、期待せずにはいられない。


画面表現は70~80年代のソウルミュージックのフィルムグレインを思わせるタッチで統一。ステージの照明やスーツの鮮烈な色彩が、暴力に彩られた暗い裏路地とのコントラストを際立たせ、まるで一枚の映画ポスターをめくるような臨場感を生む。特に1巻のクライマックス、ルーがバンドの楽屋を遠巻きに見つめるモノローグと連動したパネル割りは、本巻最大のハイライトと言えよう。


総じて『ジャクソン6』第1巻は、成り上がりストーリーの爽快感と、家族の絆が生む感動、そしてサスペンスのスリルが同居する稀有な作品だ。弟たちを守るために裏社会を選んだルーの孤高の戦いと、ステージに全てを賭けるマジック達5兄弟の姿──表と裏で繰り広げられる彼らの生命の輝きを、圧倒的なリアリティで体験することができる。


続巻が待ちきれない、重厚かつエモーショナルな伝説、その行く末が楽しみだ。










というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。

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