032 黎明の衣、悪夢の園へ
俺は漆黒の衣を纏った魔女に向かって、渾身の力を込めて剣を振り下ろした。
だが、魔女は動くことはなかった。剣が届く前に、何か見えない力によって弾き返された。
それでも俺は必死に攻撃を繰り返した。だが、どれほど力を込めようが、すべてが弾かれ、魔女には一切届かなかった。
全力で剣を振り続け、汗が滲む。ふと振り返ると、セーラがわき目も振らずに一直線に逃げていく姿が目に入り、不意に笑みがこぼれる。
こんな状況にあっても、あいつは俺のことなど気にも留めず、自分のためだけに全力で逃げている。その姿があいつらしくて、なぜかおかしかった。
――少しくらいは感謝してほしいもんだな。
心の中で毒づきながら、俺は首にかけていたクロスに手を伸ばし、それを強く握りしめると、すべての魔力を流し込んだ。
その瞬間、体が黎明の光をまとい、漆黒のタキシード姿へと変化する。そして、顔には純白の仮面が浮かび上がる。
どう見ても場違いな格好。だが、セーラから渡された変身用の魔道具は、たしかに本来の機能を果たした。
気づけば手にはステッキ状の杖が握られており、それを魔女に向かって振ると、すんなりとヤツの肩にめり込んだ。
――さすが、セーラの特注品。
突如変身した妙な格好の人間から攻撃を受けた彼女は、驚きと屈辱が入り混じった表情を浮かべる。
これなら倒せると手応えを感じた俺は、杖を持ち直し、魔女を容赦なく滅多打ちにする。すべての攻撃が確実に届き、ダメージを蓄積させていく。
そんな中、魔女も時折、大鎌で反撃を試みる。だが、至近距離では振り回したところで当たることはなかった。
俺は軽く回避し、すぐにステッキを叩き込む。
やがて魔女の動きが鈍くなり、このまま押し切れると確信した瞬間、彼女は大きく後ろに跳んで距離をとると魔法を発動した。
「
魔女が石突を地面に突き立てると、足元から巨大な手が現れた。次の瞬間、俺を掴み上げ、握り潰そうとする。
だが、身を包むタキシードには身体強化が付与されている。圧倒的な力に抵抗する。みしり、と骨が軋む嫌な音が耳に届く。
痛みに顔を歪める。そのとき、タキシードが淡く輝き、
それは魔族の魔力を打ち消し、一瞬で魔法を破壊した。俺は地面に膝をつき、肩で息をする。
その様子を嘲笑うかのように、魔女が再び魔法を展開した。
「
瞬間、世界が暗転する。視界はゆがみ、地面が黒く濁っていく。汚泥にまみれる兵たちが並ぶ戦場すら、まともな場所に思えた。
――そこは歪みと穢れと闇が渦巻く、悪夢のような異界だった。
すぐに無数の悪魔や異形の化け物たちに襲われ始める。
やつらは心と肉体を傷つけることに愉悦を感じ、顔を歪める。その攻撃は陰湿だった。
先ほどの攻撃で反魔族粒子を使い切ったタキシードには防ぐことができない。
最初に視界を奪われた。闇が覆い、何も見えない。少しずつ切り刻まれ、痛みと恐怖をじわじわと肉体と精神に染み込ませていった。
まだ数分しか経っていない。だが、永遠に感じた。
――ついに耐え切れなくなった。
俺は自ら命を絶とうと舌を噛み切ろうとした。
――そのとき、視界が戻る。目の前には魔法少女に変身したセーラが立っていた。
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