029 創造神の銃声、霧散のあとに

 アイオスは太陽馬ピュロイスに飛び乗ると、最後の魔王――原罪聖母シン・マリアへ一気に駆け出した。


 その姿は小さな太陽のごとく、大気を焦がし、天を駆け上ると、空に浮かびシン・マリアを見下ろす。


 金色に輝き、聖火に包まれたアイオスは剣を突き出し、一直線に原罪聖母へ突撃する。


 刹那、行く手に漆黒の障壁が現れ、燃え盛る光の奔流と化した彼と愛馬を正面から受け止めようとした――


 ――その瞬間、セーラが放った特級の聖魔法・最光神の裁断ホリーブレイクが障壁に巨大な穴を穿ち、シン・マリアへ続く道を作った。


 強烈な聖光で崩壊する障壁を抜けると、アイオスと太陽馬は、それに導かれるようにシン・マリアの目前へと迫っていく。


 ついに原罪聖母の頭上に到達したアイオスは、残りわずかとなった最高闘神の力を剣に集め、渾身の一撃を振り下ろす。


 刹那、最強の魔王の胸元に深く大きな切り傷が刻まれた。


 怒りと苦痛に満ちたシン・マリアの悲鳴が大気を震わせる。それは地面に伏す兵たちの目に、わずかな希望を与えた。


 その光景を見たセーラは、迷うことなくすべての魔力を注ぎ込み、超特級の聖魔法を展開する。


創造神の覇壊ゴッドギガブレイク


 原罪聖母を指さしながら詠唱を始めたセーラ。天に向けて祝詞を捧げ、魔力のすべてを天上の神々へと届ける。


 やがて中指を曲げ、引き金を引くような仕草をする。そのとき、背後にこの世界を創りし絶対の存在――創造神が降臨し、無言でシン・マリアを見下ろした。


 神を背中に感じながら、彼女は中指を静かに握り込む。


 直後、目前に現れたのは、あらゆる理を貫く輝きを宿した巨大な神の銃。その銃口が迸った。


 その瞬間、シン・マリアを囲む障壁が無音で砕け散り、一直線にその胸元を突き進む。


 アイオスの一撃で生まれた傷口を目がけて迫る神弾。彼女は両手をかざし、抵抗しようとする。


 だが、無残にも両手は吹き飛び、その胸に巨大な穴を穿ち、天空へと突き抜けた。遅れて落ちる光の残滓が舞う中、原罪聖母は静かに崩れ落ちた。


 地面に伏すシン・マリアは漆黒の粒子となり、霧散していく。


 その光景を見ていた兵たちは、それまで動けなかったのが嘘のように次々と立ち上がり、勝利を確信し、歓喜の雄叫びを上げる。


 上空からその様子を見ていたアイオスも表情を緩め、太陽馬とともにセーラのもとへ舞い降りた。


「どうにかなったな、セーラ。……ん? どうした?」


 いつもの無表情のセーラだったが、アイオスはその顔にわずかな恐怖の色を感じた。不安が胸をかすめ、じっと彼女を見つめる。


 するとセーラはゆっくりと指さす。その先には、霧散する漆黒の粒子に佇む一人の女がいた。


 黒衣を纏い、特徴的な先が尖った帽子――エナンを被ったその『魔女』は、邪悪な微笑を浮かべ、こちらをじっと見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る