027 闇が歌い、聖域が残る
残る敵は、ただ一柱、漆黒の聖母だけとなった。これでようやく、この面倒くさい戦争も終わるのだと、私は安堵の息を吐く。
――だが、そのときだった。
漆黒の聖母が、ゆっくりと口を開いた。
<私の可愛い子供たちを傷つけ、葬った罪を――今ここで、償ってもらう>
すでに血の涙も枯れ、頬には乾いた血の跡だけが薄く残る。その異様なまでに整った美貌を醜く歪め、彼女は恐ろしい調べで闇の聖歌を歌い始めた。
その声が響いた瞬間、神々の領域は音もなく消え失せ、受肉していた女神や天使たちは、無情にも天界へと還されていく。
私は瞬時に魔力を練り上げ、特級の聖魔法で自分とアイオス殿下の周囲に聖域を張り巡らせた。
すぐに自分の体を確認し、異常がないことに安堵して周囲を見渡す。
そこには聖なる加護を失い、闇の呪鎖に拘束され、地面に横たわる兵たちが広がっていた。
彼らはかろうじて息をしているものの、もはや動くことはできない。
「これは……さすがにやばいかも」
絶望的な光景に思わず呟き、一人だけでも逃げる道を探そうかと思案した。
逃走経路を探していると、いつの間にかアイオス殿下が背後に立っていた。
「……ごきげんよう、アイオス殿下。何か御用でしょうか?」
優雅にカーテシーをとって挨拶すると、殿下はつまらなそうな顔をした。
「……ごきげんよう、セーラ殿。御用というほどでもないが――何か嫌な予感がしたんで、来てみたまでだ」
そう言いながら、彼はごく当然のように尋ねる。
「それで、どうやってあの魔王を倒すつもりだ?」
そんなもの分かるなら苦労はしていない……内心でそう毒づきながら、考えるふりをし、上品な笑みを浮かべて答える。
「すみません、私の浅はかな考えでは、何も思いつきません」
涼しい顔で嘯く私を、アイオス殿下は鋭く睨みつける。すぐに大きく息を吐き、どこか達観したような表情で口を開いた。
「まあ、そうだろうな。……例の
……幸いにも、アポロ様の力も、僅かだが残っているしな。それより、お前の魔力は大丈夫か?」
殿下は『魔法少女』という言葉をあえて出さず、大勢の兵の前で変身などできない事情を察した。
そして、聖女皇としての力だけで勝算があるかを尋ねたのだが、私が出した答えは、彼の予想通りだったらしい。
すべてを理解したうえで、アイオス殿下は静かに諦め、覚悟を決めた。無傷は二人――私とともに、最悪の存在に立ち向かう覚悟を。
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