025 闘神は咆哮し、聖母が哭く

 最高闘神アポロと一体化した俺は、目の前に迫る巨大なドラゴンへ剣を振るう。


 刹那、灼熱の炎を纏った斬撃が迸り、ドラゴンと背後に連なる魔族の列を、一息に焼き尽くした。


 伝説に語られる最強の闘神の名に恥じぬ力に、口角が上がる。


 全身に湧き上がる膨大な力と高揚感に身を任せ、柄にもなく咆哮を上げて、魔族の軍勢へ突っ込んだ。



――――――――――



 次々と襲いかかる魔族をなぎ倒していく。気づけば敵の大半は討ち果たされ、残るはわずか。


 そのとき、軍勢の後方から、得も言われぬ気配が走る。


 現れたのは、漆黒の聖堂服を纏った巨大な女性。その美しくも禍々しい姿に、兵たちは一瞬、恐怖で足を止めた。


 だが、各々に宿る天使や女神の加護を信じ、聖なる鬨とともに漆黒の聖母へ突撃を敢行する。


 直後、彼らの前に屈強な魔族が立ちはだかった。まるで母を守らんとする子らのように。


 命を賭して突撃を阻む魔族たち。狂気すら滲む執念は、こちらの闘志を上回り、兵を押し返していく。


 ――気づけば、漆黒の聖母は遥か先。兵の心が挫けかけた、その刹那。


 天空から無数の煌めく羽が舞い落ち、兵たちを優しく包み、傷を癒やして聖なる力を付与していく。


 同時に、羽に触れた魔族には光鎖が絡み、捕縛と激痛をもたらした。


 想定外の支援に驚き振り返ると、天へ向かって聖歌を高らかに歌い上げるセーラの姿。


 その背後には天使長ミカエルを筆頭とする四大天使。六翼を大きく広げ、無数の光羽を放って兵を支援している。


 やがて、漆黒の聖母を除くすべての魔族が塵へと還った。


 ――いよいよ最後の戦いが始まる。


 全軍が漆黒の聖母へ向けて進軍を開始する。


 ――そのときだった。漆黒の聖母が悲痛な悲鳴を上げ、目から血の涙を流す。耳を劈く慟哭が脳を揺らし、思わず両耳を押さえて膝をついた。


 悲鳴がやみ、顔を上げて驚愕する。討ち果たしたはずの魔王たちが、この地に並び立っていた。

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