014 先兵殲滅、そして不死王
――セーラが例のロザリオをアイオスに渡してから半年が経った。ここは人間と魔族の戦争の最前線。
世界連合軍は、再び魔族領と隣接するギルブット共和国のパーツム領に再集結し、魔族との戦火を交えるべく進軍を開始した。
今回の戦いでは、大国ランドルフ皇国の皇太子アイオスが全軍の指揮を執ることとなり、多くの兵が集結し、史上最大規模の軍勢が編成された。
加えて、先の大戦で最大の功績を挙げた大聖女セーラが、最前線部隊に配属されると判明すると、ある噂が世界中へと広がった。
『世界連合軍は、この戦いで魔族に決定的な一撃を加えるつもりだ』
最前線の部隊を率いて進軍を続けるアイオスは、予想を超える大規模な戦いになったことに苦笑しながら、隣を進むセーラへと視線を向けた。
だが、彼女は無視して従兵に馬の手綱を引かせながら、黙然と魔族たちが待ち構える平原を見据えている。
「おい、大聖女セーラ、お前も緊張しているのか?」
「………………」
アイオスの声に、彼女は一切反応せず、魔族の軍勢を見据えたままだった。だが突如、両手を掲げて魔法を発動した。
「
セーラが天に祈りを捧げると、裁きの鉄槌を求める声に応じるかのように、天空から数多の英霊たちが降臨し、魔族の軍勢へと一斉に襲いかかった。
光の勇者は伝説の聖剣を横薙ぎにし、多くの魔族を両断する。神槍を構えた英雄王は一突きで目の前の魔族の軍勢を吹き飛ばした。
そして、光弓を掲げた戦乙女は、天より光の矢の雨を降らせて魔物たちを串刺しにしていく。
歴史に名を刻んだ数多の勇者と英雄たちが次々と現れ、瞬く間に魔族の軍勢を壊滅させた。
セーラはそれを満足げに見届けると、油断なく平原の遥か後方へと鋭い視線を向ける。
その様子を呆然と見ていたアイオスはようやく我に返る。
「おい、セーラ、お前は何をやっているんだ! 俺の号令を待たず、いきなり先制の一撃を放つとはどういうことだ。しかも、今の魔法で敵は全滅してしまったぞ」
「……いいえ、さっきの魔族たちは先兵に過ぎません。ほら、後方から本陣が向かってきています」
セーラはアイオスの非難を受け流し、淡々と反論すると、死屍累々たる平原の遥か彼方を指差す。
その先には、漆黒のマントを纏った不死王――ドラキュラが、不死身の軍団を率いて進軍を開始しようとしていた。
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