013 黒きタキシードの誓い
目の前にいる大聖女セーラは、ずっと俺を警戒したまま、魔力を練り続けている。油断なく、隙あらば魔法を発動しようという気配が全身から滲んでいた。
その太陽のように煌めく金色の瞳で睨まれると俺は内心で呟く。
(なるほど、さすがはウラノス王家の至宝とまで呼ばれるだけのことはある)
もちろん、そんなことを口に出したら、いかがわしいことを要求すると思われ、即座に殺される。さすがにやめておく。
だが、それにしても、どうしたらこの誤解を解けるのか――少しばかり悩ましい。
偶然、先の戦いで負傷してテントの中に運ばれていた俺は、セーラが魔女に姿を変わるところを目撃してしまった。
そのことを、それとなく伝えたのはいいが、それ以来、俺のことを極端に危険視し、絶えず距離を取ろうとする。
そんな彼女に、見なかったことにする代わりに、互いに助け合う条件を提示した。
だが、セーラはその「協力関係」という名の申し出すら信用していない。
「――こっちも何かあれば助けるし、叶えられる願いなら叶えるつもりで言ってるんだ」
最大限の譲歩を彼女に伝える――魔女の件は口外しないし、一方的な要求もしない。あくまで互いに助け合う協力関係の提案だと。
すると、セーラは少しだけ警戒を解いた様子で問い返してきた。
「わかりました。……貴方の言葉を信じることにしましょう。それで、私にしてほしいこととは、一体なんですか?」
「ああ、それは簡単なことだ。次の戦いでは、俺の参謀として同じ部隊に入ってほしい。そして、もし本当に危険な状況になった時は……魔女としての力で、皆を守ってくれ」
彼女はその言葉を聞くと、顎に手を当てて考え込み始めた。
小さく尖った顎、桃色の艶やかな唇……まさに、神に遣わされた天女のような美しさだ。
――だが次の瞬間、凄く嫌そうに顔を醜く歪めて絶対に嫌だと、はっきりと拒絶した。
「すみません、それは無理です。これ以上、危険な目に遭いたくありません。私は後方から支援魔法に専念したいと思います。それに、魔女ではなく『魔法少女』ですので、注意してください」
「ほう、つまり協力する気はないってことか? なら、遠慮なく『魔女』として教会に報告させてもらう」
告発をちらつかせると、セーラはぴくりと眉を動かし、再び考え込み始めた。
先ほどよりも深く悩んでいるようだ。こめかみに指を当て、天を仰ぎ、最後は両手で頭を抱える。
せわしなく動きながら、何とか答えを見出そうとしていた。
やがて悶え苦しんだ末に、ようやく答えに辿り着いたのか、セーラは真剣な眼差しでこちらを見据えた。
彼女は深く息を吸い込むと、首にかけていたロザリオを外し、俺に手渡しながら、厳かに口を開いた。
「わかりました。今度の戦争では、アイオス殿下が率いる部隊に随行したいと思います。ただし……もし私が危機に陥った場合には、そのロザリオに魔力を込めて、変身して私を助けてください」
彼女はそう告げて、俺の手にあるロザリオを両手で包み込み、魔力を流し込んだ。
次の瞬間、ロザリオが微かに鈴のように鳴り、衣擦れの音が教室に満ちる。
気づくと、俺は黒のタキシード姿へと変わっていた。
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