012 取引の条件、記憶の準備
銀髪に褐色の肌、すっと通った鼻筋に鋭い目元……どこを取っても隙のない整った顔立ち。
――まさに絵に描いたような美形のアイオス殿下を見ても、ときめくことはなかった。
むしろ、警戒を解かず、いつでも魔法が使えるよう魔力を練り、隙あらば実験中の記憶消去魔法を使う準備を進める。
そんなこちらの態度を気にするでもなく、彼は相変わらず飄々としている。
「おい、そんなに殺気を込めた目を向けるな。自分で言うのはなんだが、俺と二人きりで話すことを夢想する女は世界中に
なぜ私だけがこうも敵意を向けるのかと、アイオス殿下が真顔で尋ねてきた。
そんな殿下に向き直ると、改めて自分がどれほど私にとって邪魔な存在であるか、理路整然と説明を始める。
「アイオス殿下は、不幸にも、私が
「……『魔法少女』? それは一体なんだ? それに記憶消去魔法なんて、この世には存在しないぞ?」
アイオス殿下は呆れたように肩をすくめる。窓の光を指で遮りながら、彼は片眉を上げた。
「お前は何か勘違いしているようだが、俺は別に脅すつもりはない。ただ、万が一、何かの拍子にお前が魔女だと口が滑らないように、お互い注意喚起し合おうと言っているだけだ。
そして、そのついでに少しだけ俺の願いを聞いてもらえればと思っている。なあ、
アイオス殿下が何か寝言を言っているので、私は黙って無視することにした。
――この男は危険だ。
今のうちに記憶消去魔法で後顧の憂いを断つべきだと、再び静かに魔力を練り始める。
そんな私の態度を見て、アイオス殿下は「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめた。
そしてもう一度、わざとらしいほど優しい口調で脅すわけではないと念を押してきた。
「いいか、セーラ。俺はお前を邪悪な存在だなんて思っていない。ましてや、魔女として教会に差し出すつもりもない。
……それに『脅しじゃない』って言ったのはな、一方的に願いを押しつけるつもりはない。こっちも何かあれば助けるし、叶えられる願いなら叶えるつもりで言ってるんだ」
取引、という言葉に、胸の棘が一瞬だけ鈍くなる。
私はアイオス殿下の提案を聞き、一方的に搾取される話ではないとわかると、ほんの少しだけ警戒を緩めた。
――とはいえ、信用したわけではない。
ただ、魔力の練りを一旦止めて、とりあえずアイオス殿下の言う『お願い』とやらを聞いてみることにした。
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