第6話 守ってあげたい

私は加奈。高校二年生。

ある日、クラスメイトで親友の真由美に、

「ねえ、加奈は〈虫の知らせ〉とか、〈予知夢〉って、信じる?」

と聞かれたから、

「信じないわ」

ときっぱり答えた。

「はっきり言うのね」

と少々不満げな真由美に、

「そういうのって、しょせん、偶然か思い込みでしょ」

と返す。


そもそも因果関係がないのに、あたかも不思議な作用が働いたかのように、都合よく結びつけているだけだ。


「加奈って、合理主義者ね」

「真由美は信じるの?」

「うん、あたしは信じるよ。田舎のおばあちゃんが死んだ時、夢に出てきたの。

ああ、これが虫の知らせなんだなって」

「ふうん、そんなことがあったんだ」


私は自分で見たものしか信じないけど、

まあ、真由美がそう信じるのなら、それでいいと思う。


「実は、おばあちゃんだけじゃないの」

と真由美が続ける。

「ほかにも?」

「うん。おじいちゃんが死んだ時も、

かわいがっていたネコが死んだ時も、夢に見たし。

まだあるのよ。物心ついた頃から数えると、一体どれだけか、わからないくらい」

と言った後で、真剣な目で私を見つめて、

「それで、加奈。今朝は、あなたの夢を見てしまったの」

「つまり、私が死ぬかもしれないってこと?」

「たぶん、そうかな」

「ちょっと、そこ、否定しないんだ」

「いやな胸騒ぎがするの。ただの思い過ごしならいいけど……

何事もないってわかるまで、しばらく加奈のそばにいていい?

あたし、せっかく予知夢を見ても、未然に防いだことが一度もなくて、

ぜんぶ後の祭りだった……

だから今度こそ、後悔しないように、あなたを守りたいの」

「まあ、いいけど」

と私は、一応オーケーした。


するとその時を境に、真由美は私のそばを、片時も離れなくなった。

とにかく、どこへ行くにもぴったりと、くっついてくるのだ。


「ありがとう、真由美。気持ちはうれしいけど、もういいよ。

トイレにまで一緒に入ってこられるのは、さすがに……」


しかも学校の帰り道も、家までずっとついてきて、結局上がり込んでしまった。

お風呂も一緒に入って、今は私の部屋のベッドの中だ。

いくら親友でも、いいかげんにしてほしい!


「ごめんね。でも、あたし、加奈のことが、とっても心配なの」

「ってか、あなた、私を守るって言っておきながら、直後に階段から落ちて死ぬって、どうなの? 早く成仏しなさいよ」

「ああん、そんなこと言わないで、どうかずっと、そばにいさせて」

「重っ!」

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