第五話『マイスター・ウィルレット』
剣士ケビンの折れた剣の代刀を求め、二人は鍛冶屋に立ち寄った。こじんまりとした店舗の中に剣を打つ槌の音が響く。
壁には見事な出来の剣が並んで飾ってある。だが、今の路銀では購入するのは難しい。安い剣は無いかと物色していると、
「っらっしゃいやせー。どんな武具をお探しで?」
そこに弟子と見られる青年が声をかけてきた。どうやら店番も兼業しているらしい。
「剣を一本、見せてくれるかな?俺のは折れちゃって」
ケビンはとりあえず、次の愛剣が見つかるまでの繋ぎでいいと思っていたが、少し欲が出てきた。
「……ですってよ、親方ー」
「……あーん?剣を折っただぁ?」
弟子の青年はこの鍛冶屋の店主……親方に声をかける。だが、その声は豪傑のものでも、老人のものでもなく、
『じょ、女性!?』
店の奥から出てきた職人、ウィルレットは若い年頃の女性だった。作業の邪魔にならないよう、髪は短く刈り込んでいるが整った顔立ちをしている。
「しかも美人!?」
「おや?彼女、見る目があるじゃないか。照れるねぇ」
アルミラは正直な感想を述べた。それを真に受け、ウィルレットは頭を
「親方。世にはお世辞というものがありましてですね」
「夢見たっていいじゃない……。だってレディだもの……」
普通に落ち込むウィルレット。悪い人ではなさそうだ。とりあえず顔見せを済ませた。ウィルレットは手を出して、
「……ちょいと見せてみな。それで大方、分かるから」
……やはり、ぞんざいに扱ったと怒られるのだろうか?ケビンは腰の剣を、恐る恐る
「ど、どうでしょうか?」
ウィルレットが剣を抜くと、確かに真ん中で剣が折れている。刃こぼれもひどく、使いに使い込んだのが良く分かった。
「ふぅむ。安物もいいとこだね。普通なら腕が上がれば、買い替えられて廃棄処分されてもおかしくない」
「僕の腕が……まあ、確かにまだ新米ですけど……」
ケビンはこの剣を愛用していたことを、腕が上がっていないと言われたと解釈した。しかし、
「アンタの腕は良いよ。この剣ではとっくに力不足だったのさ」
怒られるかと思いきや、ウィルレットは笑顔で刃こぼれの一つ一つをまじまじと見ていた。何やら嬉しそうにも見える。
「普通ならとっくに寿命なのに丁寧に、ここまで刃がこぼれて、更に折れるまで使ってくれたなんて。良い主に出会えたね」
ケビンの腕は、なかなかのもの。この剣で今まで戦って生き延びれたのがそれを証明している。
アルミラは
(そういえばミカサさんの話では、甲殻虫の退治で折れたんだっけ……。よほどの達人じゃないと剣では斬れないわ……)
そう。甲殻虫の外皮は達人でも斬れないほどの硬度。それをこのなまくらで斬ったと思えば、ケビンの腕は相当なもの。
今日は良い剣士に出会えた。ウィルレットはケビンの背中をバンバンと叩き、
「気に入ったよ、好きな相棒を選びな。安くしとくよ」
「気に入ったついでにオーダーメイドなんて……」
「図に乗るな新米が。私の剣を持とうなんて千年早いよ」
「……でもこの店に飾られてるのは貴女が打ったんじゃ?」
「あ、店の剣は僕が修行がてら打たせてもらったものです」
マイスター・ウィルレットの剣は達人でも取り合いになる名剣揃い。彼女の剣を持つことは一流の証にもなる。かといって弟子の剣もそこらの鍛冶屋より、はるかにレベルが高い。
「一端になったらまたおいで。それまで剣への愛情が変わってなかったら……考えとくよ」
ケビンはブロードソードを一本見繕って購入した。見た目は普通の剣だが、切れ味、耐久性、手の馴染みは別格だ。
「毎度ありー」
ケビンとアルミラは店を後にし、ウィルレットも店の奥に戻っていく。そこで弟子が尋ねる。
「あいつ……良い剣士になりますかね、師匠?」
「さあてね。素質がありすぎて死んでいった馬鹿どもを山ほど知ってるよ……あ、しまった」
「……親方?」
ウィルレットは肝心なことを忘れていた。
「名前くらい聞いときゃ良かったな」
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