#7 疑問
目の前で何かが起こった。
それは、この世界にとっては非日常の他なかった。
あの日、世界から僕らは分裂してしまったのかもしれない。
「冬野さん――――。」
「なんだ?」
あの日から3日。
俺たちは起きたことを整理していた。
――――「過去を読み取れる力」そんな力が俺にはある。
「このコップ、動かせます?」
「俺、あの日のこと未だに信じてないから。」
「そうっすか――――。」
黒ずくめの集団に、取り囲まれ、羽交い締めにされ、
意味のわからないあの瞬間、冬野さんは何かの力に目覚めたと思う。
彼はなにも言わないが、そう秋本は感じていた。
「冬野さん、あの日から俺に緩くなってますよね?」
「なってない。」
「いや、なってるでしょ。」
「なってへんわ。」
冬野さんは関西出身なのだろうか。
ときどき、訛りがみえる。
というかそれこそ緩くなっている証拠だと俺は思う。
緩みに対しては、こちらにとっては気を許してくれている。
そういうことだと思うので、うれしい他ないのだが。
◆
秋本と冬野は『新都心エネルギー開発センター』から、5~600mほどにある湾岸北署近くのカフェであの日以来再会していた。
あの日、あの瞬間から彼らの気持ちは1つになりかけていた。
――――『新都心エネルギー開発センター』はなにかがある。
その直感に理由ができたからだ。
冬野は捜査を外されてはいたが、独自に調べ、
また秋本もコンビニバイトを辞め、この湾岸北エリア周辺で変なことが過去に起きていなかったかを「力」で調べあげていた。
2人とも日常を過ごしつつ、足は分裂した世界につかっている。
そんな日々を過ごしていたのだった。
◆
「冬野さん、あの話なんですけど。あ、あのとき地面に手を置いた――」
「ああ、あの行動。」
「はい。俺、残留思念...まぁ人の想いってやつを読むことができて。」
「想い――――?」
ライトノベルか、どこかのSFかファンタジーか。
冬野は「想い」という言葉におどろく。
「あそこで過去を読み取りました。それで、けっこう変な想いが強くて……。」
「変?」
「はい。何か違和感がある。そんな感じです。」
「具体的には?」
「――――人が出てこないんです。だけど強い思念が残っている。感覚でそれはわかることなんですけど。」
「つまり、消されている何かがあるということか。」
「はい。俺の力では見れないように何かしらの操作をしてそうな、そんな違和感です。強い思念は本当に強烈な感情でした――――。」
死ぬかと思ったと彼はぼそりとつぶやいた。
冬野は、持っていたコーヒーカップを静かにソーサーに戻した。カチャン、という音が、カフェのざわめきの中で妙に大きく響く。
「今、何て言った?」
声は低いが、その中に、初めて恐怖という感情が微かに混ざっているのを秋本は感じ取った。
しかし、彼は続けた。
「だから、死ぬかと思った、って言ったんすよ。思念に押し潰されるような、そんな強烈な絶望の感情が、一気に俺の意識に流れ込んできたんです。」
秋本は自分の手のひらを睨みつけた。
「あの場所に残っていたのは、『何か』に会って、その瞬間に全てを奪われた人間たちの、最後の悲鳴の集合体――――なんかそんな気がします。だけど、その『人間』の姿は、俺の力では見れなかった。」
冬野は腕を組み、顎に手を当てた。思考が高速で回転しているのがわかる。
「つまり、『人が居ないのに存在する、強い感情の
「――――そういうことです。」
秋本はコーヒーに口をつけてから深呼吸をした。
冬野はそれをみて、再びぐっと考えたのだった。
あの場所は何なんだ――――――。
BANRI×IKKU 草原かえる @toyskj8
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