#7 疑問

目の前でが起こった。

それは、この世界にとっては非日常の他なかった。

あの日、世界から僕らは分裂してしまったのかもしれない。


「冬野さん――――。」

「なんだ?」


あの日から3日。

俺たちは起きたことを整理していた。

――――「過去を読み取れる力」そんな力が俺にはある。


「このコップ、動かせます?」

「俺、あの日のこと未だに信じてないから。」

「そうっすか――――。」


黒ずくめの集団に、取り囲まれ、羽交い締めにされ、

意味のわからないあの瞬間、冬野さんは何かの力に目覚めたと思う。

彼はなにも言わないが、そう秋本は感じていた。


「冬野さん、あの日から俺に緩くなってますよね?」

「なってない。」

「いや、なってるでしょ。」

「なってへんわ。」


冬野さんは関西出身なのだろうか。

ときどき、訛りがみえる。

というかそれこそ緩くなっている証拠だと俺は思う。

緩みに対しては、こちらにとっては気を許してくれている。

そういうことだと思うので、うれしい他ないのだが。




秋本と冬野は『新都心エネルギー開発センター』から、5~600mほどにある湾岸北署近くのカフェであの日以来再会していた。

あの日、あの瞬間から彼らの気持ちは1つになりかけていた。

――――『新都心エネルギー開発センター』はなにかがある。

その直感に理由ができたからだ。


冬野は捜査を外されてはいたが、独自に調べ、

また秋本もコンビニバイトを辞め、この湾岸北エリア周辺で変なことが過去に起きていなかったかを「力」で調べあげていた。


2人とも日常を過ごしつつ、足は分裂した世界につかっている。

そんな日々を過ごしていたのだった。



「冬野さん、あの話なんですけど。あ、あのとき地面に手を置いた――」

「ああ、あの行動。」

「はい。俺、残留思念...まぁ人の想いってやつを読むことができて。」

「想い――――?」


ライトノベルか、どこかのSFかファンタジーか。

冬野は「想い」という言葉におどろく。


「あそこで過去を読み取りました。それで、けっこう変な想いが強くて……。」

「変?」

「はい。何か違和感がある。そんな感じです。」

「具体的には?」

「――――人が出てこないんです。だけど強い思念が残っている。感覚でそれはわかることなんですけど。」

「つまり、消されているがあるということか。」

「はい。俺の力では見れないように何かしらの操作をしてそうな、そんな違和感です。強い思念は本当に強烈な感情でした――――。」


と彼はぼそりとつぶやいた。

冬野は、持っていたコーヒーカップを静かにソーサーに戻した。カチャン、という音が、カフェのざわめきの中で妙に大きく響く。


「今、何て言った?」


声は低いが、その中に、初めてという感情が微かに混ざっているのを秋本は感じ取った。

しかし、彼は続けた。


「だから、死ぬかと思った、って言ったんすよ。思念に押し潰されるような、そんな強烈な絶望の感情が、一気に俺の意識に流れ込んできたんです。」


秋本は自分の手のひらを睨みつけた。


「あの場所に残っていたのは、『何か』に会って、その瞬間に全てを奪われた人間たちの、最後の悲鳴の集合体――――なんかそんな気がします。だけど、その『人間』の姿は、俺の力では見れなかった。」


冬野は腕を組み、顎に手を当てた。思考が高速で回転しているのがわかる。


「つまり、『人が居ないのに存在する、強い感情のあと』があそこに存在した。そして、その『何か』は、お前の命を奪いそうなほど強いっていうことやな。」

「――――そういうことです。」


秋本はコーヒーに口をつけてから深呼吸をした。

冬野はそれをみて、再びぐっと考えたのだった。


あの場所は何なんだ――――――。





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BANRI×IKKU 草原かえる @toyskj8

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