現代ダンジョン社会で猫転生。

灰かぶりスシ

第1話

雨が降っている。私は元々人間であった。そう、元々である。今の俺は人間ではない。猫である。そう、吾輩は猫であるのだ。名前はまだない。というより前世の名前は忘れた。しかし、そんなことはどうでもいいだろう。そう、雨だ。今は雨が降っているのである。現代社会でぬくぬく平凡と過ごしてきた自分にとってこの環境はなかなか堪えるのである。近くに雨宿りできそうな場所はないか。

...そもそも雨宿りしてもこの先どうしたらいいのか。子猫の野良猫がこの現代社会を生きるのはなかなか難しいだろう。生きぬいたとしても何をしたらいいのか。現代社会の楽をこの頭は知ってしまっている。

...寒い。いっその事諦めてしまおうか。折角のもう一度の生であるが、今この状況からこの先の未来が明るいものになるとは考えにくいのだ。

体が寒さで強張ってきた。ここで寝てしまおうか。


「...子猫?」


ふと、そんな女性の声が聞こえてきた。

声の方向を向くと人の姿が見えた。顔は見えない。


「震えてる...可哀想に...」


抱き上げられた。とても高い。が、人間だった頃はこのくらいだったなと思い、妙な懐かしさを感じた。それと同時に酷くこの人肌を温かく感じた。


「うち、くる?」


拾ってもらえるなら有り難い。にゃんと鳴き、手に頬ずりする。


「ふふ、うん。わかった。」


そうして私の体をギュッと抱きしめる。女性は傘をさしているため、雨にあたることはない。




しばらくして、女性の家に着いた。


「ちょっと待っててね。」


私をタオルの上に置く。今の私は汚れているだろう。下手に移動せずにこの上で座っておこう。と、思っていたら女性の慌てた声が聞こえてきた。


「こんな時間にごめん!猫拾っちゃったんだけどどうしたらいい!?...うん...うん...ごめんなさい、おねがいします...」


こっちに来た。


「少し待っててね。」


私を撫でる。


「にゃん」


その手に頭を擦りつける。心地よさに喉がぐるぐると音をたてる。


「じゃあご飯買いに行ってくるね。」


そうして急いで外に出ていった。周りを見渡す。意外と何もない。強いて言うなら布団があるくらいである。あまりにも生活感がない。あくまでここから見える範囲でだが。


「ただいま!」


早い。もう帰ってきたのか。


「今からごはんです!その後お風呂に入ります!」


そうして出されたのは缶詰めのご飯。

食べる。...美味しいとはあまり感じない。どうやら味覚は人間のままらしい。だが、空腹は満たされた。


「じゃあ次はお風呂だね。」




...それから、まあ、色々あった。ただ一つ言えるのはこの体で水に入るのは意外と怖いということだ。

まぁ、そんなことはどうでもいいだろう。今は目の前の問題に対処しよう。


「寝ようか。ほら、おいで。」


外から拾ってきた猫とその日のうちに一緒の布団で寝るのはどうだろうか。主に飼い主の衛生面についてだ。...まぁうすうす気づいているが、この人は猫を飼った事がないのだろう。周囲を見回す。机の下にカーペットが引いてある。そちらで寝よう。


「こっちで寝てくれないの?」


そんな声を出さないでくれ...

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