第12話 雪の夜、君の幸福を祈って

雪は静かに降り続き、街の景色を白く包み込む。

梨乃と真冬はアトリエを出て、雪道を歩いていた。

足跡は二人分だけ。互いの手は自然と絡み合い、温もりを伝え合う。


「寒くないですか?」

真冬が梨乃の手を握り、手袋越しに指先の温もりを感じさせる。


「ううん……真冬さんがいるから、大丈夫」

梨乃は微笑むが、その瞳には不安と決意が入り混じる。

──記憶は戻った。

でも、この人といる今の温もりが、私の全てだと知っている。


雪が舞い落ちる中、真冬はふと立ち止まり、梨乃の目を見つめた。

「梨乃さん……僕は、もう誰にも渡しません」

その声は低く、真剣で、静かに世界を震わせる。


梨乃は息を飲み、頬を赤く染める。

その瞳には、涙が光っていた。

「……真冬さん……」

言葉にならない声で、彼女は胸の奥にある感情を確かめる。


真冬はそっと梨乃を抱き寄せる。

雪の冷たさと、二人の体温が混ざり合い、空気は一瞬で熱を帯びる。


「ずっと……僕のそばにいてほしい」

その囁きに、梨乃は力強く頷いた。

「うん……私も、真冬さんと……」


雪の中、二人の影が一つに重なる。

真冬は優しく頬に唇を寄せ、軽くキスをする。

梨乃は目を閉じ、静かにその温もりを受け止める。


蓮は遠くからその光景を見守る。

胸の奥で痛みが走るが、言葉を発することはできない。

──俺の想いは届かない。

でも、彼女が幸せなら、それでいい……

深く息をつき、雪に包まれる街を見上げる。


夜、アトリエに戻る二人。

暖炉の前で、手を握り合いながら暖を取る。

真冬は静かに告げる。

「梨乃さん……今のこの瞬間を、永遠に大切にしたい」

梨乃は涙を流しながら、静かに抱きつく。

「私も……真冬さんと……」


結香はその隣で、影のように静かに立っていた。

罪悪感と切なさが胸を締め付ける。

──過去を思い出した梨乃は、今の愛を選んだ。

止めることはできない……でも、見守るしかない。


アトリエの窓の外では、雪がさらに深く積もり、世界を白く染めていた。

二人の温もりだけが、冬の夜を優しく照らす。


蓮は静かに扉を閉め、深呼吸をする。

──これでいい。梨乃が幸せなら、俺はもう何も求めない。

胸に痛みを抱えつつ、蓮は雪の夜空に向かってそっと祈る。

「どうか……二人を、守ってくれ」

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