舌の標本――声は、誰のものか

ソコニ

第1話 舌の標本

 恋人の舌を初めて見たのは、彼女の死後三ヶ月が経ってからだった。

 封筒の中身は十枚のカラー写真。A4サイズ、医療用の中性的な照明。送付状には検体番号と「研究資料としての閲覧許可」。私は音響音声学の研究室で、彼女の声を復元しようとしていた。残された音声データから声道の形状を逆算する。データから身体へ。それは学術的興味ではなく、もっと原始的な何かだった。

 写真の舌は、口腔という文脈から切り離されると、見慣れた器官ではなくなる。表面の乳頭、側縁の凹凸、舌根部の粗い質感。私はこの筋肉に何度も触れた。だが写真の中のそれは、別の存在に見えた。

 三枚目の拡大写真。糸状乳頭の間に、線状の構造。最初はひび割れかと思った。だが規則性がある。虫眼鏡を取り出す。

 文字だった。

 ひらがな、漢字、句読点。刺青でも傷でもなく、組織の質感に溶け込んでいた。

 《声帯は空気を裂く刃である》

 私は立ち上がり、彼女の遺品整理で回収したノートを探した。黒い表紙。詩を書き溜めていたノート。ページをめくる。三年前の日付。詩篇「発声について」の冒頭。

 同じ一節。

 写真が撮影されたのは彼女の死後。彼女が自分の舌に文字を刻む方法などない。それに、文字は表面への刻印ではなく、細胞レベルで織り込まれているように見えた。

 他の写真。角度を変えた撮影。別の文字列。

 《音は肉体の外傷である》

 《言葉は喉を通過するとき、喉を傷つける》

 すべて彼女の詩からの引用。彼女は生涯、声と身体の関係について書き続けた。言語は物理現象である以上、身体に痕跡を残す。

 私は法医学教室に電話をかけた。

「舌の表面に文字のような構造があるんですが」

「そのような所見は記録にありません」

 技師の声は事務的だった。

「写真を確認していただけますか」

「お送りした写真は標準的な撮影を行ったものです。特記事項はありません」

「では、実物を見せていただけませんか」

 沈黙。

「実物は、既にお送りしました」

「届いたのは写真だけです」

「いいえ、冷凍保存された検体を、三日前にそちらの研究室宛に発送しています」

 私は受話器を握ったまま、研究室を見回した。三日前。学会で不在だった。

 共用冷凍庫を開ける。

 奥に、見慣れない発泡スチロールの箱。

 医療用パックの中、淡いピンク色の肉塊。表面に薄い霜。ラベルの検体番号と、彼女の名前。

 手袋をはめる。パックを取り出す。室温で解凍を待つ間、私は窓の外を見ていた。大学の中庭。落葉が風に舞っている。

 一時間後、常温に戻った組織を実体顕微鏡の下に置く。

 倍率を上げる。舌の表面が視野を埋める。乳頭が小さな山脈のように立体的に立ち上がる。

 文字があった。

 写真で見たものより、はるかに多い。顕微鏡越しに観察すると、舌の全表面が文字で覆われている。彼女の書いた詩だけではない。彼女が読んだ本からの引用。彼女が話した言葉。私との会話の断片。

 《あなたの声は夜に溶ける》

 これは彼女が最後に私に言った言葉だった。事故の前日、電話で。詩の中で使いたいフレーズだと言っていた。まだ詩にはなっていなかった。メモにも残していなかったはず。

 顕微鏡にカメラを接続し、舌の表面を系統的に撮影していく。文字は無秩序ではなかった。舌尖部には子音に関する記述。舌背には母音の分析。舌根部には声帯と呼吸についての考察。部位ごとに異なる音韻体系。舌は発話のための解剖学的教科書として、自らを組織化していた。

 撮影データをパソコンに取り込む。舌の三次元モデルを構築し、文字の配置をマッピングしていく。すると奇妙な規則性が浮かび上がった。文字列は単なる記録ではなく、特定の音響パターンに対応している。各文字の位置は、その音韻を発声する際の舌の接触点と正確に一致していた。

 つまり舌は、発話の記憶を空間座標として保存していた。

 私はマイクロメーターを使って文字の深さを測定した。表面から0.3ミリメートル。粘膜層を貫通し、筋層の上層にまで達している。だが組織に損傷はない。文字は傷として刻まれたのではなく、細胞分化の過程で形成されたように見えた。

 舌の断面を観察するため、組織片を薄く切り出した。ミクロトームの刃が舌の筋層を切断する。刃の感触が妙だった。通常の生体組織より硬い。まるで微細な繊維質が織り込まれているような抵抗。

 標本をスライドグラスに載せ、ヘマトキシリン・エオジン染色を施す。

 顕微鏡で観察する。

 筋繊維の配列。通常、舌の筋肉は規則的な方向性を持って配列している。内舌筋と外舌筋が直交し、三次元的な運動を可能にする。だが彼女の舌では筋繊維が複雑に絡み合い、織物のような構造を形成していた。

 倍率を上げる。

 織り目の中に、文字が見える。

 筋繊維自体が、文字の形状を模して配列している。これは後天的な変化ではありえない。筋肉の構造は胎児期に決定される。

 私はさらに深い層の切片を作成した。舌深層。血管と神経の走行を観察する。

 血管は文字の輪郭に沿って走り、神経線維は文章の改行位置で分岐していた。毛細血管の網目が、まるで印刷インクのように文字を形成している。神経終末は句読点の位置で終わり、次の文の開始位置から新しい神経束が始まっていた。

 舌の血管系そのものが、言語の構造を反映していた。

 撮影を続けているとき、研究室の録音機器がノイズを発し始めた。

 微かなホワイトノイズ。次第に明瞭な音声に変化していく。人間の声に似ているが、どの言語とも判別できない音韻の連なり。

 私はスピーカーの音量を上げる。声は明瞭になったが、意味は掴めない。だが韻律、抑揚、リズムには覚えがある。

 彼女の話し方だった。

 声の音色は違う。だが話し方の癖、間の取り方、文末の微妙な上昇。

 私は舌をスピーカーに近づけた。音声が一瞬途切れ、再開する。今度ははっきりと聞き取れた。

 私の声だった。

 正確には「私が彼女に話しかけたときの声」。録音されたことのない、私的な会話の断片。私が彼女に愛を語ったときの言葉。詩について議論したときの反論。取るに足らない日常。

 スピーカーから流れる私の声は、私が忘れていた言葉を再生していた。

「言語は身体を通過するとき、身体に記録される」

 彼女の理論。声は空気の振動であると同時に、発話器官の運動でもある。その運動は筋肉に、骨に、粘膜に微細な痕跡を残す。声を出すたびに、身体は変容している。

 私は録音を開始した。デジタルレコーダーのメーターが激しく振れる。入力レベルが異常に高い。通常の会話音量の三倍。だが研究室に響く音量は小さい。

 録音データをパソコンに取り込み、音声解析ソフトウェアを起動する。

 波形を表示する。規則的な正弦波ではなく、複雑に変調された波形。だが周期性がある。基本周波数を測定する。

 220ヘルツ。成人女性の平均的な声の高さ。

 だが異常なのは倍音構造だった。

 スペクトログラムを表示する。縦軸に周波数、横軸に時間、色の濃淡で音の強さを表現したグラフ。通常の人間の声であれば、基本周波数とその整数倍の位置に、明瞭な帯状のパターン—フォルマント—が現れる。

 だが画面に表示されたスペクトログラムは、そうではなかった。

 第一フォルマントが同時に二つの位置に出現している。800ヘルツと1200ヘルツ。物理的にありえない。一つの声道から、二つの異なる共鳴が同時に生成されている。

 第二フォルマント、第三フォルマントも同様だった。各フォルマントが複数の周波数帯域に分裂し、まるで複数の人間が同時に発話しているかのようなパターンを示していた。

 私はさらに詳細な解析を行った。高速フーリエ変換を適用し、周波数成分を分離する。すると驚くべき事実が明らかになった。

 重なり合っている声は、二つではなかった。

 三つ、四つ、五つ。少なくとも七つの異なる声が、同一の音声信号の中に重畳していた。それぞれが異なる言語を話していた。日本語、英語、さらに未知の言語。音韻体系からして異なる言語が、一つの発話の中に共存していた。

 彼女は晩年、「多言語的発声」という概念について書いていた。一つの声帯から複数の言語を同時に発する可能性。物理的には不可能だが、理論上は—各音韻が異なる周波数帯域を占有すれば—実現できるかもしれない。

 私はスピーカーから舌を遠ざけた。音声は止まらなかった。研究室の別の機器—パソコンのスピーカー、換気扇のモーター音、冷蔵庫のコンプレッサー—あらゆる振動する装置が声を発し始めた。

 周波数を変えながら。

 蛍光灯が明滅する。その点滅パターンが、モールス信号のように規則的だった。私はスマートフォンで明滅を記録し、パターンを解析する。

 点滅の周期は、先ほど測定した音声の基本周波数と一致していた。220ヘルツ。一秒間に220回の明滅。人間の目には知覚できない速度だが、光そのものが彼女の声の周波数で振動していた。

 研究室は声に満たされた。彼女の声、私の声、聞いたことのない声。それらは混ざり合い、干渉し、新しい音韻パターンを生成していく。

 私は椅子に座り、目を閉じた。

 音の洪水の中で、一つの声が際立って聞こえ始める。

 それは私に語りかけている。

「あなたは、私の声を再現しようとしている」

 私は目を開けた。研究室には私しかいない。

「でも、あなたが再現しているのは、私の声ではない。あなたが記憶している声だ」

 声は続ける。

「声は、発話者だけのものではない。聴取者の記憶の中で変容する。あなたの中の私の声は、もう私のものではない」

 私は口を開いた。

「君は、どこにいるんだ」

 声が笑う。彼女の笑い方だった。

「私はここにいる。あなたの研究室に。あなたの顕微鏡の下に。でも同時に、私はここにはいない。私はもう、声を持たない」

「じゃあ、今聞こえているこれは—」

「これは、私の舌が発している声。でも、私の舌はもう私のものではない。それは標本であり、研究対象であり、あなたの欲望の対象だ」

 沈黙。

「あなたは私を再現したいんじゃない。あなたは私を所有したいんだ。私の声を、私の言葉を、私の思考を。すべて」

 私は顕微鏡から目を離し、研究室を見回した。声はどこから来ているのか。

「声は、どこにでもある。空気が振動すれば、それは声になりうる。あなたの鼓膜が振動を解釈すれば、それは言語になる」

 私は舌を見た。顕微鏡の下で、それはただの組織片だった。動かず、生命の兆候もない。

「私の舌は、私が話したすべての言葉を記録している。でも、それだけじゃない。私が聞いたすべての声も記録されている。あなたの声も、そこにある」

 再び顕微鏡を覗く。舌の表面を拡大する。文字の間に、新しい記述。いや、最初からそこにあったのかもしれない。

 《声は、発話者と聴取者の間に存在する》

 《それはどちらにも属さず、どちらにも属する》

 《声は、所有できない》

 やがて夜が明けた。

 翌朝、研究室は静寂に戻っていた。

 舌は顕微鏡の下にある。表面の文字も変わらずそこにある。だが音声現象は起きなかった。

 録音機器のメモリを確認する。昨夜の音声が記録されている。ファイルサイズは4.2ギガバイト。三時間分の録音。

 再生する。

 ホワイトノイズと、その中に埋もれた断片的な音声。言葉としては聞き取れない。だが確かに人間の声の特徴—フォルマント、基本周波数の変動—を持っている。

 私は観察記録をノートに書き留め始めた。日付、時刻、顕微鏡の倍率、観察された文字列の位置座標、録音された音声の周波数特性。データだけを淡々と記述していく。

 ノートに万年筆を走らせながら、私はふと手を止めた。

 筆跡が、いつもと違う。

 文字の角度が微妙にずれている。「あ」の最後の払いが長い。「る」の結びが丸い。私はもっと角張った文字を書く。

 前のページを見る。

 昨日までの記録。確かに私の筆跡だった。だが今日の記録は、微妙に違う。

 彼女の筆跡に似ていた。

 私は万年筆を置き、自分の右手を見た。ペンだこの位置が、わずかにずれている。昨日まで中指の側面にあった硬化部が、今は指の腹側に移動していた。

 まるで長年、別の持ち方でペンを握っていたかのように。

 私は再び筆記を試みた。意識的に、自分の筆跡で書こうとする。だが手が勝手に動く。文字は彼女の筆跡で綴られていく。

 私は筆記を中断し、舌の組織学的分析を続けた。

 新しい切片を作成する。今度は舌の側縁部。味蕾が集中する領域。

 染色し、顕微鏡で観察する。

 味蕾の構造は正常だった。だが味蕾を取り囲む上皮細胞の配列が異常だった。細胞が同心円状に配列し、その配列パターンが—

 文字だった。

 細胞レベルで、文字が形成されていた。一つの文字を形成するために、数百個の細胞が協調して配列している。

 これは発生学的にありえない。

 細胞は局所的な化学勾配に従って配列する。大域的なパターン—文字のような記号—を形成するためには、細胞間の長距離コミュニケーションが必要だ。だがそのようなメカニズムは、少なくとも哺乳類の組織には存在しない。

 私はさらに高倍率で観察した。個々の細胞の核を観察する。

 核の中に、染色体。

 染色体の凝縮パターンが、やはり文字を形成していた。

 遺伝子レベルで、言語が書き込まれている。

 私は顕微鏡から目を離した。

 これは何なのか。

 彼女の舌は、単なる記録媒体ではない。それは自己組織化する言語システムだ。細胞、組織、器官のすべてのレベルで、言語を生成し続けている。

 そして今、その言語システムが—

 深夜、私は再び研究室に忍び込んだ。誰もいない。冷凍庫から舌を取り出す。

 解凍し、スライドに載せる。倍率を上げる。

 文字が変化していた。

 増えていた。以前は記録されていなかった言葉。私が最近書いた論文の一節。彼女の死後、私が書いた文章。彼女が読むことのなかった言葉。

 それが、彼女の舌に刻まれている。

 舌は記録を続けていた。私が彼女について書くたび、彼女について話すたび、彼女を思い出すたび、その言葉は舌に刻まれていく。冷凍保存された死んだ組織のはずなのに。

 いや、これは死んだ組織ではない。

 別の形で、生き続けている。

 私は舌をスピーカーの近くに置いた。彼女に向かって話し始めた。

「君が死んでから、もう一年が経った」

 スピーカーから、微かなノイズ。

「僕は、君の声を再現しようとした」

 ノイズが言葉になった。私の声だった。だが抑揚が違う。彼女の話し方で、私の言葉を話している。

 私は続けなかった。

 研究室のすべての機器が振動を始めた。パソコン、冷蔵庫、換気扇、蛍光灯。

 それらが一斉に声を発した。

 私の声と彼女の声。重なり合い、区別できない。

 私は口を開き、その声に加わった。私の声が、研究室を満たす声と混ざり合う。

 だが発声した瞬間、私は気づいた。

 自分の声が、自分のものではないことに。

 口の中の感覚が、違う。舌の位置、上顎への接触、声道の共鳴。すべてが微妙にずれている。

 まるで別人の発声器官を使っているかのように。

 やがて振動は収まった。研究室は静寂に戻った。

 私は舌を冷凍庫に戻した。

 だが翌朝、冷凍庫を開けると、舌はなかった。

 発泡スチロールの箱はそこにある。だが中身は空だった。医療用パックだけが残されている。

 私は研究室を見回した。どこにも舌はない。

 だが顕微鏡のステージに、何かが載っている。

 近づいて見る。

 小さな肉片。数ミリメートルの組織片。

 顕微鏡で観察する。

 それは舌の組織だった。

 だが彼女のものではない。

 組織の構造、筋繊維の配列、血管の走行パターン。私は彼女の舌を三ヶ月間観察し続けた。その構造を完全に記憶している。

 これは、違う。

 私はスライドグラスを手に取り、洗面所へ向かった。鏡の前に立つ。口を開ける。

 舌の表面。右側縁に、小さな欠損。

 数ミリメートルの、きれいな切断面。

 痛みはない。

 欠損部の切断面は、医療用メスのような鋭利な刃物によるものだった。組織は壊死していない。むしろ切断面が既に上皮化している。肉芽組織の形成が見られる。

 これは数日前に切除されたことを意味する。

 だが数日前、私は誰とも会っていない。研究室に一人でいた。

 睡眠中か。

 いや、睡眠中であれば痛みで目覚めたはずだ。局所麻酔でもない限り。だが麻酔注射の痕跡もない。

 では、私が起きている間に。

 私が顕微鏡を覗いている間に。

 誰が、何が、私の口に手を入れ、舌を切除したのか。

 それとも—

 私は自分で切除したのか。無意識に。記憶もなく。

 鏡の中の自分の顔を見る。

 見慣れた顔。だが何かが違う。

 表情が、いつもと違う。

 口角の上がり方。目の細め方。

 それは、彼女の表情だった。

 私は研究室に戻った。顕微鏡のステージに載せた私の舌の断片を観察する。

 組織片の表面に、文字が刻まれている。

 彼女の詩の一節。

 《あなたの舌を見てほしい》

 《そこには、私の声が刻まれている》

 私は観察記録をノートに書き始めた。

 万年筆を走らせる。手が勝手に動く。

 書かれていく文字は、完全に彼女の筆跡だった。

 私はペンを持つ手を見た。

 私の手。だが動きは彼女のもの。

 書かれていく言葉も、彼女のものだった。

「観察記録。私の舌は今、彼の研究室にある。彼の顕微鏡の下に。そして彼の舌にも、私の言葉が刻まれている。私たちの舌は、もう区別できない。発話器官は、個人に属するものではない。それは言語に属する。言語が、私たちの身体を借りて自己を記述している」

 私は—いや、彼女は—書き続けた。

「声は死なない。それは他者の発話器官に移行し、そこで新しい形を取る。私の声は今、彼の声帯から発せられる。彼の声は、私の記憶の中で変容し続ける。私たちはもう、別々の個体ではない。一つの言語システムの、二つの端末に過ぎない」

 ペンが止まった。

 私は—私は誰なのか。

 声を出してみる。

「私は—」

 それは彼女の声だった。

 いや、違う。私の声だ。だが彼女の発音で、彼女の抑揚で。

 私は鏡を見た。

 口を開ける。舌を出す。

 舌の表面全体に、文字が刻まれていた。

 彼女の詩。私の論文。私たちの会話。すべてが、私の舌に記録されていた。

 そして舌は、まだ記録を続けていた。

 私が今考えている言葉まで、リアルタイムで舌の表面に浮かび上がっていく。

 思考が、即座に組織に刻まれる。

 私は—私たちは—もう区別できない。

 発話は、誰のものか。

 記録は、誰によってなされるのか。

 私は研究室の窓を開けた。冷たい空気が流れ込む。

 外は、まだ夜明け前だった。

【終】

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