第22話 勇者の妹がこんなに可愛いわけがない
御代家から帰った後、弓彦は夕食を食べ、しばらくして風呂に入っていた。一方、アルスはリビングでテレビを見ていた。
「しかし、アイドルとやらは本当にすごいな。島を作ったり、いろんなものを作ったりしている。歌や踊りだけではないんだな」
「まー、この人たちは昔っからいろんなことをしてきているからね~」
アルスのコメントに対し、弓彦姉はこう返事した。その時だった。アルスは急に立ち上がったのだ。
「ん? どしたの?」
「魔力が近付いてくる」
「誰かくるの?」
「うーん……まだ分からない」
しばらくアルスは魔力を探っていた。そして、アルスはこう言った。
「あいつ、大丈夫だったか!」
一方、そんなことを知らない弓彦は湯船に浸かり、御代家での仕事の疲れを癒していた。
「うへぇ……やっぱ風呂は癒されるな」
お湯を腕や手にかけている中、天井の方から掃除機のような音が響いた。
「ん? こんな夜に掃除か?」
どうして夜に掃除をするんだと弓彦は思った。だが、それは掃除機の音ではなかった。直後、天井に謎の空間が広がったのだ。
「マジかよ、また誰かがくるのかよ⁉」
アルスが転移した時に、弓彦は空間の割れ目を目撃している。何かがくると察した弓彦は慌て始めた。しばらくして、空間の割れ目から人影が見えてきた。その影は徐々に弓彦の所に近付いてきた。
「うわァァァァァァァァァァ‼」
「おいおい、ここに落ちてくるつもりかよ!」
弓彦は人影を確認しようとしたのだが、その前に激突してしまい、気を失った。
「ん……プファッ! 何ここ? 熱い、服が濡れてる……」
人影、ムーンは周囲を見渡し、ここがどこかの風呂場だと認識した。
「ここにお姉様がいるはず。早く探さないと」
ムーンは立ち上がろうとしたが、何かが手に触れた。だがそれは、何故か微妙に柔らかかった。壁を掴んだはずなのにと思いつつ、ムーンはその物体を見た。見てしまった。
「へ……へ……ヘアウギャァァァァァァァァァァ‼」
ムーンの悲鳴を聞き、アルスが風呂場に入ってきた。
「弓彦、何かあったのか⁉」
アルスは湯船で気絶している弓彦と、弓彦のあれを触って白目をむいているムーンを目撃した。
「今度はお前か」
アルスはムーンに近付き、頬を叩いた。
「ほれ起きろ、ムーン。目を覚ませ」
「ふぇ……え⁉ お姉様ァァァァァァァァァァ‼」
我に戻ったムーンは、勢いよくアルスの胸に抱き着いてきた。
「おいおい。いきなり飛びつくなよ。驚いたじゃないか」
「すみません。でも、久しぶりに会えたので感激して……」
「よしよし。分かった。とりあえず、風呂から出よう」
アルスはびしょ濡れのムーンを連れ、脱衣所へ向かった。
「服を脱いで待ってろ。私の服だが、持ってくるよ」
「お姉さまの服……ありがとうございます!」
アルスの服を着られることになり、ムーンは感動した目でこう言った。アルスははしゃぐムーンに落ち着けと言った後、服を取りにタンス部屋へ向かった。
ムーンは服を脱ぎ、アルスがくるのを待った。そんな中。
「イテテ……何だったんだ今のは……」
風呂場の中から弓彦の声が聞こえた。服を脱いでスッポンポンのムーンは、ぎょっとし入口の方を向いて叫んだ。
「ちょっと、こっちにこないでください‼」
「え? 誰? 姉ちゃんの友達?」
「違います‼」
「じゃあ誰だよ君は?」
弓彦は声の主を見るため、扉を開けた。そこにいたのは、スッポンポンのムーンだった。
「ひ……ひぎゃァァァァァァァァァァ‼」
ムーンは弓彦に向け、魔法陣を発生させた。そこから、無数の光の弾が弓彦の股間に向けて、飛んで行った。攻撃が急所に当たり、弓彦は悶絶した。そして、再び気を失った。
「何だ、また騒動があったのか?」
アルスが服を持って戻ってきた。ムーンは急いで着替えをした後、今あったことをアルスに伝えた。
「うん。弓彦も悪いが、気持ちは分かる。いきなり知らん人が家にいるというのは、驚くものだ」
「そう言うもんですかね……」
「事情はすでに皆に話した。後は弓彦に伝えるだけだ」
アルスはそう言って、弓彦のあそこの治療を始めた。
「私はムーン・ローレリアと申します。ペルセラゴンでは賢者として、お姉様……勇者アルスと一緒に魔王と戦っていました」
ムーンは簡潔に自己紹介をし、弓彦の家族に頭を下げた。
「いやー、できた子だねー」
「ほんと、しっかりした子だよ」
「悲鳴があった時は驚いたけど、いい子じゃん」
家族はムーンに対し、いい感じに見ているようだ。弓彦以外は。
「何がだよ。いきなり風呂場に乱入して、いきなり人の急所に変な魔法をぶっ放す奴のどこがいいんだよ」
まだ痛む男の急所をさすりながら、弓彦はこう言った。その言葉に対し、ムーンは弓彦を睨みつけてこう言った。
「うるさいですよ!」
「まーまー、とにかく落ち着け」
にらみ合う二人の口喧嘩を止めるため、アルスは間に入った。
「こうなったのは偶然だ。弓彦も股間を見せたくて全裸になったわけじゃない。あいつはそこまで変態じゃないさ」
「まー、かばってくれるのはうれしいけど……」
弓彦は少し照れながらこう言った。この様子を見たムーンは非常にイラッとし、弓彦の腹部に目がけて空気弾を放った。
「ウゲボッ‼」
「なんかイラッとします。お姉様、この人と何かあったんですか!?」
弓彦に攻撃を加えながら、ムーンはアルスに質問をした。アルスは少し考え、こう返事した。
「別に何もないな。特別な関係じゃあないぞ」
「それならいいです」
ムーンは攻撃の手を止め、アルスに近付いた。
「さぁお姉様。今すぐペルセラゴンへ戻りましょう。魔王が消えた今、あそこは平和なはずです」
「帰り方わかるのか?」
アルスにこう言われた後、ムーンの目が丸くなった。そして、彼女は自分の失態に気付いた。
「そこまで調べてなかったァァァァァァァァァァ‼」
「それに、今魔王はこの世界にいる」
「えええええ⁉ 魔王が、この世界に⁉」
魔王がここにいることを知り、ムーンは窓を開いて周囲を見渡した。
「確かに魔王の気配がする……どうして魔王がここに⁉」
「魔王が私の体を狙ってこの世界にきたのだ」
この言葉を聞き、ムーンは体を震わせながらこう言った。
「まさか、あの魔王……お姉様の体を乗っ取る気なんですか? もしくは、洗脳して部下に……」
「いや、エロいことをしようとしている」
アルスの返事を聞き、ムーンはずっこけた。
「何ですかその理由? と言うか、あの魔王は世界を滅ぼすとか征服する気はないんですか? 最初、そんなことやりそうなことを言ってた気がしますけど」
「あの様子じゃあ何にも考えていないだろう。あいつと何回か手合わせしたが、いっつもエロいことしか言わない。部下の人が呆れてたぞ」
「じゃあ何でペルセラゴンを襲ったんだろう?」
「それは我の性欲を満たすためだ‼」
会話に割り込む形で、窓からショーミが現れた。
「あらら、エッチな衣装のお姉さんね」
「寒くないんですか?」
ショーミの衣装を見た弓彦の父と母が、ぽつりと感想を漏らした。
「意外と寒くないんですよこれ。後我、寒いのに慣れてますので。というわけで勇者、我と一線を越えよう……おや?」
ショーミは、アルスの後ろで震えているムーンを見て、ニヒヒとエロい笑みを浮かべた。
「何だお前は?」
「私は賢者、ムーン・ローレリア‼ 勇者アルスの妹分です‼」
「妹分か……子供みたいな体系だが……我の目ごまかすことはできぬ! お主、美乳だな‼」
ショーミが非常にバカバカしいことを言ったので、ムーンは顔を真っ赤にしてこう叫んだ。
「ち……違いますよ‼」
「自分の乳に自信を持て。それより、かわいらしい妹分がいるとは思わなかったな。じゃあ今晩は姉妹丼として頂いちゃいますか‼」
「そんなことさせるかァァァァァァァァァァ‼」
アルスの光魔法と、ムーンの風魔法が交じり合い、合体魔法となってショーミを襲った。
「いやァァァァァァァァァァ‼ 合体魔法は止めてェェェェェェェェェェ‼」
攻撃を受けたショーミは情けない悲鳴を上げながら、夜空の星となった。
「毎度毎度呆れる奴だ。時間を考えろ」
「本当に恐ろしい相手です……」
と、アルスとムーンはこう言った。ひと段落着いたと思った弓彦は、ムーンにこう聞いた。
「なぁ、ムーンっつったけ? お前どうやって生活するんだ?」
「私はお姉様の妹分。帰り手段が見つかるまで、ずっとお姉様の傍にいます‼」
この返事を聞き、弓彦は思った。また厄介なのが増えたなと。
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