モンスターワールド

カノン

第1話 プロローグ

【野村 フユキ】


2083年  ネオトーキョー


ここは、日本の首都 ネオトーキョーの端っこの田舎町。

昭和や平成に建てられた古い民家がネオトーキョーに向かう大通りの国道に建ち並んでいる。


その民家の空いた土地に所狭しと建ち並ぶレストランやコンビニ。

賑わっている都心の一部に見えるが、ちょっと道を曲がれば、畑や神社と田舎の雰囲気が顔を覗かせる。


俺はそんな国道を愛車のハンドルを握りしめ、ペットの犬を助手席に乗せて走らせている。


この、人がいなくなった街を………


すれ違う対向車もいない。

散歩している人もいない。

レストランにもコンビニにも客がいない。

店員もいない。


誰もいない。


人のいなくなった街。


いつもなら、遠くからでも聞こえてくる車のエンジン音。

車が通り過ぎていく風切音。

人の話し声。


街って、人がいなくなると、こうも静かなものなんだな。


俺の車の音だけが、静かな街に響いている。


時刻は12時。


そろそろ腹が減る。


俺は助手席でスヤスヤと眠っている愛犬のミルクを見る。


白と茶の綺麗な毛並み。

蝶をイメージしたような大きな耳。

小型犬のパピヨン、ミルクちゃんだ。


「そろそろ飯の時間だな、ミルク」


ミルクの背中をそっと撫でながら、視点を前に戻し、前方に見えてきたコンビニの看板が飛び込んでくる。


俺は減速しながら、コンビニの駐車場に入っていき、停車させると、ゆっくりと車を降りた。


ここにも人の気配がない。


だが…


カラン!


ここは違うみたいだ。

誰かいる。


俺の頭の中に咄嗟に人というイメージが飛び込んでくる。


俺はコンビニの入口に走り、自動扉のガラス張りから、店内を見渡す。


ここからでは確認できないが、店内は荒れ放題だ。


棚の商品や雑誌が散乱し、ATMの液晶パネルにはバールが深々と突き刺さっている。


金を取ろうとしたのか知らんが、もはや無法地帯だ。


カラン!


また音が鳴る。

金属が床に落ちたような鈍い音。


店内の奥だ。


自動扉を力付くで開け、店内に入っていく。

散乱した商品を踏まないように丁寧に一歩一歩前進していく。


自分の足音も息遣いも消し、音の方に進む。


ガサガサ…

ザクザク…


また新たな音が増えていく。

何かを漁るような音と何かを食べるような音。


音の正体はこの角を曲がった先にいる。


俺が顔を覗かせると……


菓子袋を頭から被った、黄色いぬいぐるみみたいな生き物がいた。

黄色い毛並み、長めの稲妻みたいな形をした尻尾。

大きさは小型犬ぐらいで、うちのミルクちゃんと同じぐらいだ。


俺はコイツが何なのかを何となく知っている。


だけどそれは有り得ない。


何故なら、コイツはゲームの世界にしか存在しない者だからだ。


だけど、コイツは現実に存在している。


その生き物が菓子袋を取ると、赤丸の模様がある頬に、尖ったような耳が姿を現す。


「チュ〜!」


明らかに敵対心があり、怒っている様子。

毛並みが逆立っていき、その生き物の周囲に青白い静電気のような雷が走る。


お前までいるのかよ……


昔、よく遊んだ携帯ゲーム機 スウィッチというゲーム機。

その限定発売ソフト【カプセルモンスター】

通称 カプモン


アニメから映画、グッズ販売と波に乗り。

社会現象まで巻き起こした伝説のゲーム。


そのゲームの看板キャラクター

【ピカッチャ】


この世界はどうしちまったんだよ?


こんな世界になったのは、思えば3日前だ……

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