シューティングスターアロー~大切な人ができたので、人生を謳歌しつつ敵を射るよ

鍋兎クレープ

第1話 始まり×生きる理由

 人によって『生きる理由』、『生きる意味』は異なる。

 ある者は幸せを求め、ある者は憎しみを胸に刻み、そしてある者は夢を馳せる。

 俺にとって生きるという事は、幼き日に絶望から救ってくれた【少女との約束】であり、【あの日の真実を知るための旅路】。


 蝋燭の寂しい灯が薄く照らす部屋に影が2つ。幼い少年と少女は、自分たちの火が消えてしまわないように1枚の毛布に包まり肩を寄せ合う。

『忘れないで。あなたは1人じゃない。離れ離れになっても心は繋がっていて、あなたの傷を私が一緒に背負って生きていくから。いつか2人で普通の人生を送りましょう。だから…生きる事を投げ出さないで。約束して』

 この言葉にどれだけ救われただろうか。どれほど生きる気力が湧いただろうか。氷よりも冷たく、鉄よりも頑丈に心を覆っていた闇が溶けた瞬間、人生に光が差した。

 自分は1人ではない。彼女が一緒にいてくれるという真実だけで、生きる希望が生まれた。

『ありがとう。僕も君の傷を一緒に背負うよ。心はずっと側にいる。だから…いつかまた─』

 少年が頭を撫でると少女は目を丸くし驚きつつも微笑んで、少年の胸に頭を預けた。撫でられる度に少女の金色の髪が、灯に照らされ燦燦と輝き、揺らめく。

 これは運命が交錯した日の追憶。


 ガタンッ─

「…ふげっ…?」

 大きな揺れで目を開けると、そこは馬車の中だった。振動で揺れたランタンの灯があらぶっている。隙間から陽の光が差し込み、乱雑に詰まれた荷物たちを照らす。

 ついうたた寝をしていたようだ。今のは幼き日に救ってくれた少女との思い出の記憶。この頃よく見る良い夢だ。何かの前触れだろうか。


「今日の寝起きは良いようだな」


 本から視線を外すことなく声をかけてきたのは、親友の『ライナー・ベルクマン』だ。よくこんな揺れる馬車の中で本が読めるものだ。俺なら数秒と持たずに酔っているに違いない。

「今日はいい夢だったからな。あの子の…ミラちゃんの夢だった」

「例の孤児院での女の子か。一日しか一緒にいなかったという」

「そう!俺は次の日には、親戚の家が近くにある別の孤児院に移動することになってたからね。会いたいけど…でも、復讐に人生捧げてる野郎の顔なんて合わせるべきじゃない気がするんだ。あの子はそれでも生きてくれればいいと言ってくれたけどさ…」

「生きてるならいいだろ。救われたなら笑顔で会ってやれ」

「そう、だな。お別れした時に凄く寂しかったし、また会えるって約束したからね。まぁでもその後すぐにライナーと再会できたんだから悪くなかったさ」


 俺とライナーは同じ村出身で幼馴染だ。家が近所でよく遊んで家族ぐるみでの付き合いもあったんだけど、訳あってライナーは村を出た。その数年後、俺も村を出る事になって孤児院に入ったんだけど、その孤児院にライナーがいた。


「まさかいるとは思わず、驚きの再会だったな!」

「クソ親父がよくわからん御伽噺の研究に取り憑かれて、数冊の本と僅かばかりの金を残して蒸発したからな。親類は引き取れる状況になかったから、孤児院に入るしかなかった。マナや武術の勉強ができたから、いい環境だったさ。【英雄デュランダルの物語】を嫌というほど聞かされる以外は」


 【英雄デュランダルの物語】─我がスカイ国の一番有名なおとぎ話。スカイ国民で知らない人などいなほど超有名。どこの国にも必ず1つはある、ありきたりな英雄の物語。

 世界征服を目論む悪の組織【オメガ】が暴虐の限りを尽くし、世界中で暴れまわった。抑圧された民は嘆き、悲しみに暮れた。そんな時、民を救うべく一人の英雄が立ち上がった。それが『デュランダル』だ。仲間を集い、聖剣を手にし、竜に乗り、悠然と戦いを仕掛けた。長きに渡る戦いの末、デュランダル率いる英雄達は悪の組織を退けて世界に平和がもたらされた。

 どこにでもありそうな超王道な英雄譚だね。


 そして何を隠そう、このデュランダルの生まれ故郷が、俺とライナーの故郷である【トロス村】だ。自然豊かで昼間には小鳥がさえずり、夜になれば川のせせらぎと虫の鳴き声のハーモニーで賑わう、程よく静かで心落ち着く最高の場所“だった”。

 あの日までは。

 

 今から10年前の秋風が吹く少し肌寒くなった日。スカイ国の地図からトロス村は消えた。絶望が押し寄せ、壊滅したのだ。

 今の名は『トロイ村跡地』。英雄の故郷は地図から姿を消した。

 生き残った村人は1人─当時8歳の俺、【エドガー・アクセル・スターリースカイ】のみ。


「英雄なんて都合のいいものは、この世にいない。故郷が消えるとは夢にも思わなかったし、その一報を聞いてからあの物語を聞くと胸が苦しくなった。無常だな」

「あぁ…本当にな」

 目を閉じればあの時の風景が、匂いが、空気がまるでいま目の前で起きているかのように感じられる。そして、何もできなかった無力感が毒の様にじわりじわりと心を蝕む。

(どうして俺は…俺だけが生き残ったんだろう…)

 答えのない自問に陥ろうとした時、馬が悲鳴にも近い咆哮を上げて、揺れが激しくなった。


「おい出番だぞ、お兄さん方!魔物だ!賃金サービスしたんだから護衛は頼むぞ!!」

 馬車を運転してくれていた初老の御者さんからお呼びがかかった。目的地まで歩いていくには少々遠かったので、運び屋のおじさんに頼んで護衛を引き受ける代わりに安く乗せてもらったのだ。荷物と一緒なので少し窮屈だけど、意外と快適だ。

 鞘から剣を抜き、幌の外に出て状況を確認すれば、2体の魔物が馬車の周りを飛び回っていた。

 鷲のようなきめ細かくも屈強な大きな翼と、馬のように筋肉質で逞しい前脚。血走った眼は標的である俺たちを捉えていた。

『ヒッポグリフ』─中型の魔物だ。好物は馬肉。そして【人肉】だ。

 スカイ国は自然豊かで、その土地の多くは森や山だと言われている。人の住んでいる場所の方が遥かに少ない。すなわち魔物や“例の奴ら”にとっては住みやすい環境なわけで、人よりも沢山生息している。

 戦闘に備えゴーグルとマスクを付け、マナを高める。

「おかしいな…ここら辺はヒッポグリフのテリトリー外のはずだ。でも近くに【アンノウン・エリア】もあるし、そこまで変でもないか。しかし傷もあるようだし…飛竜にでも負けたか?」

「考えるのは後にしようぜ。1体は俺が引き付けるからライナーは馬車の上から応戦してくれ」

 そう言うと俺は─『風に乗った』。


 人は生まれてきた時に、誰もがマナを宿す。宿したマナの属性によって使える魔法の属性が決まる。自分自身ではどうすることもできない。ある意味では天から与えられた贈り物。

『火』、『水』、『地』、『風』、『光』。この5大属性のいずれかが必ず宿る。属性によって操ることのできる元素が異なる。

 俺は【風のマナ】を宿しているから、風属性魔法を使う事ができる。具体的には自由自在に風を操れるって感じ。

 他の属性はあまり詳しくは知らないけど、火や水を自由に扱えたり、大地を変えたり、光は結界を作り出せて回復魔法なんかができるらしい。結構憧れる。


 そして今、俺が発動させたのは風属性上級魔法【エアライド】。風を纏い飛行能力を得ることができる便利なスキルで、使える人間はそう多くない。

 馬車から飛び立ち、1体のヒッポグリフに向かって突進。交錯した瞬間に剣戟を入れるが、頑丈な羽に阻まれて微かに血がにじむくらいで大した傷にはならなかった。国から支給されている剣で決して鈍ではないのに流石の防御力だ。だが、気を引くには十分だったようで標的を俺へと変えた。

 翼を羽ばたかせ方向転換。耳をつんざく咆哮を上げて怒りを露わにし、風を切り裂いて猛然とこちらに向かってきた。追いつかれないようにスピードを速め、馬車から離れる。

 全身で風を浴びながら空を自由に飛んでいるのが心地いい。戦闘中ではあるが癒されて、生きているという実感が湧く。風のマナを持って生まれてきた人間の特権だね。


 視界の端に、地面から水の柱が間欠泉の様に天高く突き上がるのが見えた。その水の柱に吹き飛ばされ空中を舞うヒッポグリフも確認できた。

 水属性魔法【ウォーターフォール】。【水のマナ】を持つライナーの攻撃だ。

「相変わらず容赦ないなー。でも俺も、後悔したくないから…本気で行こう」

 剣にマナを込める。淡い緑色の光が剣に纏わり、煌めく。でもこの煌めきは、マナを流し込んだ俺にしか見えない。なんだが不思議なものだ。

 マナを武器に纏わせる事で、その分だけ威力が増す。マナ操作の基本的な技だ。名前はない。

 逃げ回るように飛んでいたのを急速に方向を変えて振り返り、ヒッポグリフに向かう。風が全身に張り付き、内臓が揺れるほどに圧がかかる。血が止まってしまうように錯覚する程。

 怒りに染まった眼を一段と開き、獲物である俺に狙いを定めて爪を振り上げた。その鋭さを物語るように太陽の光に反射し輝く。当たれば一瞬で肉塊に変貌する事は想像に容易い。

 死が間近であるのを感じるように、凍えるくらいに血が冷たくなっていく感覚が広がる。でも大丈夫だ。

『俺はまだ死ぬわけにはいかない』

 マナが高まり、体の底からエネルギーが溢れてくる。

 その瞬間に俺の体は、風を置き去りにするくらいに急加速した。剣から甲高い風切り音が一瞬だけ聞こえた。

 爪が振りかざされる間もなくヒッポグリフの懐に入り込み、剣を全力で振り上げた。

「ごめんな…その命、貰うよ」

 マナで強化された剣撃は羽の防御をも切り裂き、その身に届いた。空気を割く断末魔と共に鮮血が舞う。羽ばたかせていた翼は動きを止め、巨体は重力に従い地面へ落下。勝負は決した。


「はぁ…相変わらずこの緊張感は好きじゃない。にしても」

 なんでヒッポグリフがこんな所に。主要道で出るのは珍しくはないが、この場所での発見は近年報告すらされていなかったはず。でも仕方がない。

 俺たち人間は、この土地の事を完全に理解できていないのだから。

 【アンノウン・エリア】─人類が足を踏み入れたことの無い未開の地。

 魔物や例の頂点捕食者の住処となっていて危険度が高く、ほぼ手付かずで調査が進んでいない土地。このスカイ国でも未だに半分以上がアンノウン・エリアとなっている、らしい。しかもその一部はこの主要道の近くに存在する。ヒッポグリフみたいに中型魔物が出てこようと、おかしくはないのだ。

 自然豊かな森林や山脈、砂漠など、人間にとっては生きるのは過酷な環境の中を調査するのはリスクが大きい。巨大で獰猛な魔物もいれば、毒性の強い植物などもある。自然に対する知識とそれなりの戦闘力がなければ調査などできない。

 本当なら騎士団が率先してやればいいのだが、長きに渡る隣国との争いで中々そっちにまで手が及ばないと言うのが現状だと、学校の先生が教えてくれた。


 かすかに残る手ごたえを味わいつつ、地面を見つめた瞬間にそんな感傷に浸っている時間はないと悟ってしまった。地面に落ちたヒッポグリフの死体を捕食する1つの影を見つけた。

 奴らだ─。

 魔物なんかとは比べ物にならない、この世界で最も危険な存在。

 触れただけで傷ついてしまいそう鋭利な深紅の鱗に覆われた体躯とヒッポグリフとは比べ物にならないほどに大きく屈強な羽、空気も引き裂けるような爪、岩をも砕けるであろう牙とその間だから滴る鮮血。


 【リンドヴルム】。


 この世界の頂点捕食者である【飛竜】の1種。世界で確認されている飛竜は10種。その中で危険度5、すなわち上から5番目に危険と判断された飛竜種だ。

 生態的特徴は『狂暴かつ一度狙った得物は執拗に追いかける』。

「なんでこんな所に…!?」

 普段なら山脈近くに住んでいて、滅多な事では人里に現れないと言われているのに。おそらくヒッポグリフを追ってきたのだろう。どんだけ食欲旺盛なんだよ。確かにヒッポグリフの肉は美味しけどさ。気持ちはわかるけど、やめてほしい。

 俺の声に一瞬視線が合ったがすぐに別の方を向く。何かを発見したようで猛スピードで前進。その視線の先には…俺が乗っていた馬車。そしてライナーと戦闘を繰り広げているヒッポグリフ。距離はそこそこ離れていて、豆粒ほどの大きさにしか見えない。

 ついでにリンドヴルムは、ヒッポグリフなどの魔物だけではなく人も襲う。容赦なく食べる。


「まずい!」

 どうやら1匹では満腹にはならなかったようだ。これだけの巨体なんだから納得ではあるが。

 とにかく知らせなくては。背負っていた弓矢を出し、素早く矢に花火を取り付けると同時に着火し、空に向けて射った。

 灰色の煙と共に、空気を切り裂くような甲高い笛のような音が広がり、数秒後には花火の破裂音と昼でも見える刹那の閃光がほとばしる。これで飛竜の襲来を周囲に知らせる事はできた。これでライナーは気づいてくれる。

 このままリンドヴルムを行かせては、馬車に追いつかれるのは時間の問題。攻撃から馬車を守りつつこの場から逃げるのは不可能だろう。街までは遠く、助けは望めない。俺とライナーで倒すしかない。緊張感が高まるけど、復讐のためにこれしきの事で止まるわけにはいかない。

 火薬を装着した矢を装填しつつマナを流し込む。同時に飛行速度を上げてリンドヴルムの儀横に位置取ると同時に矢を射る。狙い通り肩に命中した数秒後、眩い光と共に爆発。衝撃波が骨の髄まで響く。

 しかしリンドヴルムは止まる事はなく、煙を引き裂いて前進を続ける。一瞬バランスを崩した程度であまりダメージがない。結構な量の火薬を使った爆発なのにこの程度とは、流石飛竜。

 だが煙の中から姿を現した瞬間、地面から勢いよく水が突き上がり、リンドヴルムに直撃すると顔面を仰け反らせた。同時に轟音を纏い、鉄砲水のような勢いで水が押し寄せリンドヴルムに直撃。ようやく前進が止まった瞬間、水の上を走ってきたライナーが一気に斬りかかる。首筋を捉えた切っ先が、強固な鱗を切り裂いて傷をつけた。水に赤黒い血が混じり広がっていく。

「ナイス!」

 俺も続こう!と息巻いて斬りかかろうと近づくがライナーほどの対飛竜戦闘技術は無く、動きを読むことができずに尻尾を振られ、あえなくガードに回る。

「ぐっ!?」

 ガードしたものの桁違いのパワーに一瞬で空高く打ち上げられた。前進を突き抜ける衝撃に手が痺れ、全身の骨が軋んだ。内臓が気持ち悪い。見た目通りのパワー。厄介極まりない。


 近付けないなら遠距離攻撃で隙を作る。

 じっくりと動きを見て、マナを込めた矢をライナーが付けた傷口に目掛けて放つ。翼のガード潜り抜け、命中。追撃で風の刃を飛ばす風属性魔法【ゲイル・レイン】も放つが読まれてるようで瞬時に強靭な翼にガードされ、わずかに傷をつけるだけに留まった。良い調子だ。

 なんて思ったらリンドヴルムの周囲に複数の大岩が浮かび上がった。

 飛竜種の厄介な所だ。奴らは俺達と同じように【魔法攻撃が使える】。

 空中で一瞬停止。何の前触れもなく岩が宙を舞い、俺達とは全く別の方向へと飛んで行った。

 だがその場所はわかる。


 岩が飛んだ先には、俺たちが乗っていた馬車。馬も頑張って走ってはいるが、先ほどヒッポグリフから全力で逃げるために体力を消耗していて、足が上がり少しふらついて遠くへと逃げる事が出来ないでいた。

 岩が馬車に迫った時、先回りしていたライナーが水の壁を出現させ防護。さらに自分の周りに水を集めて一気に放つ。猛烈な速さの水は岩をも粉砕。岩の後ろから虎視眈々と距離を詰めにかかっているリンドヴルムにも直撃させていく。岩も砕けるほどの威力だが、それで威力が半減してか残念な事にあまりダメージは入っていない様子。

 一方のライナーは瞬間的にかなりの量のマナと、体力を注いだためか額からは水に混ざり汗が滴っている。まだ余力はありそうだが、この状況はよろしくない。

 これが対飛竜においての難題だ。おそらく俺とライナーの2人ならリンドヴルムを撒けるし、時間を駆ければ狩る事ができる。『ある理由によって』狩るというのは無理なのだが、とにかく何かを守りながら時間をかけて戦うのは不可能。

 飛竜は頭がいい。本能だけで戦うような獣とは違う。状況を理解し、その時の最善を考える。おそらくこれからも隙を突いては馬車との距離を詰めて攻撃を仕掛けてくる。そうすれば俺たちに隙が生まれるのがわかっているから。

 その証拠にいま俺は、リンドヴルムから一瞬“目を離してしまった”。

 視線が合ったライナーが目を見開く。風切り音が微かに聞こえ、その方向を見れば大岩が一つ飛んできて来ていた。

「くっ…!」

 纏っていた風を急速に変化させ、体を捻り回避。それを読んでいたように回避場所に向けて鋭利な爪を振り下ろされていた。岩の陰に隠れていてリンドヴルムへの視線が切れたため一瞬反応が遅れたが、急上昇する事で何とかその攻撃も回避に成功。『よかった』…そう甘い考えが過った瞬間に視界の端に蠢く大きな影。

 胴体と同じくらい長くそれでいて大木よりも太い尻尾だ。先端に岩でできたハンマーのようなコブがついている。三段構えの攻撃だ。


(もっと対飛竜戦闘術を勉強しておけばよかった…)


 後悔と共に尻尾との距離がみるみるうちにゼロに近づく。剣でガード態勢を取りしつつ、少しでも真正面から受けないように風を操り、僅かでもその場から動く。

 剣に尻尾が掠った瞬間、全身を衝撃が駆け抜けた。一瞬たりとも耐える事ができず吹き飛ばされた。体が回転。どこが上でどこが下か全くわからない。急いで全身を風で包み込むがその瞬間、地面へと叩きつけられた。衝撃で何度も打ち付けられるように転がるが、風を纏っていたおかげで衝撃は緩和されすぐにバランスを整えられた。地面を蹴りそのまま上昇。微かに見えていたリンドヴルムを再び視界に取られえる。

 痛いがそれよりも何度も回転させられて気持ちが悪い。吐きそう。もう食らいたくない。

「あぶねぇ…うぅっ…気持ち悪…」

 にしてもほぼ掠った程度なのにこの威力とは流石飛竜。これでも危険度5で、これよりも強い種があと4種いるのか…信じたくないね。

 弱音を心の吐いて忌々しく視線を送ってみるが、足元に水に流されてきたヒッポグリフの死体─ライナーが仕留めた奴を食べてさらに元気になっている。


「そろそろ満腹になってくれよ!これで“帰ってくれないかな”…ライナー!なんかいい方法はないのか!!」


 スカイ国には【飛竜保護法】という法律が存在する。簡単に言えば飛竜を追い払うために攻撃するのは良いが、無許可で殺めたりこちらから攻撃を仕掛けるのを禁止するというもの。飛竜が希少だからこの法律ができたらしいが、この状況ではなんとも厄介なものだ。


「リンドヴルムは一度狙った得物に執着するが、戦意喪失すれば元の縄張りに帰ると言われている。時間をかけて弱らせるしかないだろ。まぁその時間をかけるというのが大変なのだが…やるしかないだろ」


 本当なら早期決着をしたいが俺もライナーも今の攻撃では火力不足。仕留めに行けば火力過多。ちょうどいい方法がない。

 いや『奥の手』を持ってはいるが、誰かに見られる危険性がある以上はここで使いたくない。まだ誰にも見せたことがない、親友のライナーにも見せたことがない『奥の手』が。

 使わない以上は他の方法でどうにかするしかない。根競べと行こうか。

 俺達の闘志に当てられてか、それとも単純に食欲が満たされてきてか、リンドヴルムは天に向かって咆哮を上げる。耳をつんざくその響きは、空気が震わせ、土煙を舞わせる。頼むから帰ってくれ…怖すぎるんだが。

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