おばあちゃんと妖精さん

クランベア*

第1話

なっちゃんのおばあちゃんには、お友達の妖精さんが

いた。なっちゃんもその妖精さんに会ってみたくておばあちゃんによく強請った。


「なっちゃんも妖精さん会いたい。なんで会えないの?」


そう言って強請る度、おばあちゃんは申し訳なさそうに、でもしっかりと


「ごめんね、なっちゃん。もう妖精さんとはおばあちゃん会えないの。その代わり、たっくさん妖精さんのお話聞かせてあげるからね」


と言うのだった。


 おばあちゃん家に行く度に妖精さんに会いたいと強請って、謝られてを5回くらい繰り返して、

やっとなっちゃんは妖精さんには会えないことを理解した。

それなら妖精さんのお話を聞こうとおばあちゃん家に行く度に


「ねぇね、おばあちゃん!妖精さんのお話して!」


と強請った。そうするといつも楽しそうに懐かしみながら妖精さんとのお話を聞かせてくれるのだった。

妖精さんと木の実を取った話。お裁縫を教えてもらった話。一緒に大人にイタズラを仕掛けた話。

どれも楽しそうなお話ばかりだった。

おばあちゃんはいつもレンズが丸い木製のめがねをかけながら、時間の許す限りなっちゃんに強請られるままお話を聞かせた。


 十数年経ち、妖精と友達だというあの話はおばあちゃんの夢物語なんだと気づいた奈美子は、

妖精の話を強請ることをやめた。

少しずつ歳をとったおばあちゃんは、そのことに気付いたが、少し寂しそうにするだけだった。


 更に数年経ち、ついに寝たきりになったおばあちゃんは、お見舞いに来た奈美子に声をかけた。


「なっちゃん。おばあちゃんの妖精さんのお話、聞いてくれる?」


おばあちゃんから妖精の話を振ったのは、これが初めてだった。


「…うん。いいよ」


おばあちゃんは嬉しそうに目を細めながら遠いあの頃を見ながら話し出した。


「妖精さんね、とても器用な方だったの。

お裁縫も教わったし、私には作れないけど、硝子細工なんかも作ってたのよ。

…ある日ね、私にひとつプレゼントをしてくれたの。

レンズが丸い、木製のめがね。

私、不思議だったわ。だってめがねはかける必要がなかったもの。

不思議に思って首を傾げていたら、妖精さんは笑いながら秘密を話すみたいに耳元に飛んできて、こう囁いたの。


『これは不思議なめがねなのよ』


って。

かけると、今までの私と妖精さんの2人の思い出が、はっきりと頭に描き出されるんですって。

妖精さんが言っていたことは本当だったのね。

おかげで私、とても楽しかったのよ」



これで話はおしまいだとでも言うように、それきりおばあちゃんは深く眠ってしまった。

おばあちゃんの顔を見ながら思う。

そういえば、あのお話をする時しか、めがねはかけていなかったな、なんて。

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