人生リセット

クランベア*

第1話

6月29日。僕は人生をストップさせた。まさか本当に

止められるなんて思わなかったから驚いたけれど。

「あの噂、本当だったのか」

そんな独り言を近所の公園でベンチに座りながら

呟いた。


 最近どこからか流れ出した噂がある。

「誰にも聞かれずに叶えたいことを囁くとその通りになる」。

最初は単なる噂だと思って信じていなかったが試しに

やってみたらできてしまった。ただし、何故かもう1人の自分を呼んでしまったことを除いて。


 「なにこれ?お前がやったの?

てか俺と顔一緒だウケる。どうなってんの?」

「まるでカエルにつつまれたみたいだ」

「自分でやっといて?あとカエルじゃなくてキツネな。国語苦手か?」

もう1人の自分はなんだか自分では無いみたいに全てが違くて。話を聞くと、どうやら僕とは全く違う人生を歩んできたらしい。

「お前、マイケルって友達いる?」

「あの外国籍の子か。その子とはクラスメイトだ」

「あ、関係も違ぇんだ」

多少会話をした後、今までの経緯を自分に話した。話終えると、現実味がない話ながらも何とか納得してくれたようだった。

「経緯はわかったけど、なんでそんなこと願ったんだ?


『世界が止まりますように』 


 なんて」


そう聞かれて言葉に詰まる。まさか本当になってしまうとは思っていなかったから、実の所理由はない。

けれど、

「少し疲れてしまっただけだ」

ふとそんな言葉が口をついた。その返答を聞いた自分は曖昧なあいずちを打った。沈黙が流れる。ふと、自分が口を開いた。


「やっぱりよく分かんねえけど、疲れたら休めば」


驚いて自分に目を向けた。

「世界を巻き込んで休みたくなる前にお前だけで休んで、回復したら復帰すればいい。ゲームと一緒じゃね」

僕は寝耳に葉っぱだった。なるほど。休めば良かったのか。しかし気づいたところでもう遅い。もう世界は止まってしまった。そんな僕の心境に気づいたのか、ぱっと閃いたように自分が立ち上がった。

「じゃ、俺が世界を進めてやるよ!」

「僕が叶い終わったからもうそれは無効なんだ」

「俺はお前だけどお前じゃない。俺だって願ってもいいだろ?」

そう言い切って、もう1人の自分は息を大きく吸い込んで叫んだ。

「『世界が一日前に戻りますように』!」

最後に見た自分は、笑っていた。


 6月28日。気づくと僕は公園のベンチに座っていた。今まで何をしていたか思い出せないが、何故か心は満たされている気がした。

そろそろ帰らなければと立ち上がる。

「頑張れよ」どこからがそんな声が聞こえた気がした。

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