エンド・スタート・ワールド

田鰻

第一話 ブースト要らずのスタートダッシュ

第一話 ブースト要らずのスタートダッシュ -1-

 その日、地球に天才が生まれた。

 名は、西園寺貴彦。彼は生まれからして非凡であった。


 世界に名を轟かせる西園寺財閥の長男として誕生した彼は、2歳にして20ヶ国語をマスターし、5歳にして世界最高峰の大学の全学科全課程を修了、10歳にして星間飛行理論を完成させ、人類を新天地へと導いた。


 そんな彼が名実共に西園寺の頂点に立ったのは12歳。実績を考えれば遅すぎるともいえるこの頃、各所に囲っていた女の数は5000人を超えていた。


 彼はまた科学者であるのみならず、文学者であり、経営者でもあった。

 13歳の誕生日に、彼はこれまで西園寺が手がけていなかった、合法的な賭博場の開設に乗り出す。

 その類稀なる頭脳により計算され尽くした高度な遊戯施設は、併設された金融機関を含め莫大な利益を上げると共に、のめり込んだ破産者が続出。最終的な自殺者は20万人を超えた。


 彼はまた、慈善事業にも積極的であった。平凡な金持ちが半ば義務で行うそれとは違い、彼は心から世界の悲劇を悲しみ、弱者を慈しみ、時に寝食を投げ打ってでも物資と人員双方から改革に取り組んだ。

 どのような悲惨な事柄にもそれを食い物にする悪が付き物だが、彼は決して怯む事などなかった。

 結果として大小700の犯罪組織が彼の活躍により潰され、掃討作戦に巻き込まれた一般人がその3倍は犠牲となった。


 容姿端麗、頭脳明晰。知勇兼備の頂点とも言える男、西園寺貴彦。

 人類の至宝、世界の救世主、稀代の悪鬼、地下の帝王と謳われ、讃えられ、恐れられた彼は、遂に真実、世の全てを掌中に収め、味わい尽くし、やる事もなくなったので自ら命を絶った。


 西園寺貴彦、実に26歳の春であった。



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