えるてん!〜エルフ転生少女のまほうと休日〜
ひなゆづ
転生直後編
おっさん、転生先は金髪エルフ美少女でした
(ざわざわ……木々の音。鳥の声。やわらかな風が吹き抜ける)
早野「……ん……? ここ……どこだ……?」
(地面は土。見渡す限り、見知らぬ森)
早野「(会社帰りに車に乗って……あの交差点で……)」
(脳裏にフラッシュバック:赤信号、トラック、衝突音)
早野「……そうか。……あの時、俺……」
早野(苦笑)「まさか死んだ? ここって、天国……?」
(ガサッ……!)
早野「!? だ、誰かいるのか!?」
(木の陰から、栗毛の長髪の女性が現れる。静かに早野を覗き込む)
早野「あ、あの……」
???「✳︎△※♢✧……?」
早野「(……は? 何語? 全然わからん……!)」
(女性は困ったように首をかしげ、ポーチから小瓶を取り出す)
(瓶の中には淡く光る液体。女性は“飲む”ジェスチャーをして早野に差し出す)
早野「……飲めってこと? 毒じゃないよな……?」
(少し間を置いて)
早野「……ええい、ままよ!」
(ゴクリ)
(甘い香り。喉を通った瞬間、視界がわずかに揺らぐ)
???「――どう? 言葉、通じてる?」
早野「えっ!? 言葉がわかる!? 日本語みたいに……!」
???「うん、よかった。効いたみたいね。」
(女性はほっと微笑む)
早野「あ、あの……あなたはいったい……?」
???「説明したいことがあるの。
私の家に来て。すぐそこだから。」
(女性は森の奥の小道を指さす)
早野「……状況、さっぱりだが……頼む。教えてくれ。この世界のことを。」
(立ち上がり、女性のあとを追う)
(木漏れ日の中、二人は森の奥へと歩き出した――)
---
(森を抜けると、目の前に広がる静かな湖)
(湖面は鏡のように空を映し、ほとりには木造のロッジがぽつんと建っている)
???(女性)「さぁ、入って。」
(言われるままに扉をくぐる早野)
(木の香りが心地よく、暖炉の火がパチパチと燃えている)
早野「す、すみません……お邪魔します。」
(ふかふかのソファに座らされ、温かい紅茶を差し出される)
???「まずは、成功ね。」
早野「……え、成功? えっと……状況がまったく分からないんですが……
あなたはいったい……?」
???「私はリリサ。この家でポーションの研究と開発をしているエルフよ。」
早野「エルフ……?」
(よく見ると、彼女の長い髪の間から細く尖った耳が覗いている)
早野「(まじで……エルフ耳……?)」
リリサ「エルフの魔法で、あなたの“魂”を転生させたの。」
早野「……魔法? 転生……? ちょ、ちょっと待って……どういうことだ……?」
(混乱する早野。ふと、自分の体に違和感を覚える)
(作業着の袖がだぶつき、手がやけに小さい)
早野「……ん? なんか……服、でかくないか?」
(裾をめくり、腕を見る)
早野「腕……細い……? 手も小さい……?」
(次第に声が震える)
早野「ま、待ってくれ……声まで……高い!?」
(リリサが無言で鏡を差し出す)
リリサ「落ち着いて。これを見て。」
(おそるおそる鏡を覗き込む早野)
早野「……っ!?!?」
(そこに映っていたのは――金髪の少女)
(絹のような髪、大きな瞳、整った顔立ち、そして長い耳)
早野「お、俺が……美少女になってるぅーーー!!??」
(数秒の沈黙)
早野「鏡、バグってない!? 誰この可愛い生き物!? 俺か!?」
リリサ「うるさい。」
(リリサは少し苦笑しながら)
リリサ「成功って、そういうことよ。」
(早野、頭を抱える)
早野「成功ってレベルじゃねぇぇぇ!!」
リリサ「うん、びっくりするのも無理ないわね。」
(リリサは紅茶を一口すすりながら落ち着いた様子)
早野「ちょ、ちょっと待ってくれ……どうして俺が……こんな姿に……!」
リリサ「あなたを“選んだ”のは私じゃないわ。魔法が選んだの。」
早野「魔法が……?」
リリサ「エルフの転生魔法はね、ランダムで魂を呼び寄せるの。
ただし――“器に適応する魂”が呼ばれやすいの。」
早野「器に……適応?」
リリサ「そう。この世界にまだ肉体を持たない“魂の欠片”を、
私が作った器に宿らせるの。けれど、合わなければ拒絶反応を起こして消えてしまう。」
早野「消える……って……」
(背筋がゾクリとする)
リリサ「でもあなたの魂は、驚くほどこの器と共鳴した。
正直、こんなに綺麗に転生が成功するなんて初めて見たわ。」
早野「そ、そんな偶然あるか……俺、普通の工場勤務のおっさんだったんだぞ……?」
(ふと、頭の奥に蘇る記憶)
退勤中、信号待ちで見かけた女子高生たちの笑い声。
夕陽の中、友達と肩を並べて歩くあの楽しそうな光景――
早野「(いいなぁ……俺もあんなふうに、笑って生きてみたかったな……)」
リリサ「……思い当たること、あるでしょ?」
(まるで心を読んだように微笑むリリサ)
早野「ま、まさか……その、俺が一瞬考えたことが……?」
リリサ「ええ。あなたが“もし女の子だったら”って考えた瞬間、
あなたの魂はこの器と波長を合わせたの。
だから呼び寄せられたのよ。見事にね。」
早野「……おいおい、それってつまり……
俺の“もしも”が、現実になっちまったってことか……!?」
(頭を抱え、ぐったりとソファに沈み込む)
リリサ「まぁ、そういうこと。
でも落ち込むことないわ。あなた、すごく可愛いわよ?」
早野「いや褒められても困るんだよ!? 俺、元はおっさんだぞ!?!?」
(リリサ、クスッと笑う)
リリサ「“元は”でしょ? 今はもう――この世界で生きる新しいあなた。
名前も、考えなきゃね。」
早野「……名前?」
(リリサが早野の前に立ち、柔らかく問いかける)
リリサ「そういえば、あなたの名前は?」
早野「……早野孝之(はやの たかゆき)です。」
リリサ「ハヤ……ノ? ……変な名前ね。」
早野「おい!?」
リリサ「だって、この世界にはそんな名前の人いないのよ。
うーん……そうね……あなたは今日から“ティナ”ね。」
早野「ティナ……? いや、なんか可愛すぎない!?」
リリサ「実際可愛いんだからいいじゃない。
よろしくね、ティナ。」
ティナ(早野)「えぇ……(いや、納得いかねぇ……)」
(リリサはふわりと微笑む)
リリサ「今日から、私と一緒に暮らすことになるわ。」
ティナ(早野)「え!? なんで!?」
リリサ「なんでって……あなた、この世界の生活の仕方わかる?
住民登録の仕方も、お金の稼ぎ方も、全部未知でしょう?」
ティナ(早野)「……たしかに。ぐうの音も出ない……」
ティナ(早野)「(でも、この綺麗なお姉さんと暮らせるとか……
ちょ、ちょっとラッキーかもしれない……?)」
(ニヤけかけた瞬間、リリサがじろりと見る)
リリサ「……何か考えてるでしょ?」
ティナ(早野)「い、いや!? なんでもないです!!」
リリサ「まぁいいわ。あなたの部屋もちゃんと用意してあるから。」
(立ち上がり、ティナを見て)
リリサ「ところで――その服じゃ動きにくいでしょ。
少し着替えましょうか。」
ティナ(早野)「え、ちょ……着替え……?(ドキッ)」
(リリサは軽く笑い、奥の部屋へとティナを連れていく)
(新しい生活の第一歩が、静かに始まろうとしていた――)
次回【初めての夜。フリルとスープと少し照れくさい日】
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