第2話 シックスパックラビット参上!
それから、何度かモンスターに襲われている人々を助けることがあった。すると最近、こんな噂を耳にするようになった。
「シックスパックラビットが、魔法を使わず素手でモンスターを倒して助けてくれた」
「腹筋バキバキのウサギに助けられた」
かなり広まっているようで、聞いた時は驚いた。なんだ、シックスパックラビットって。でも絶対僕のことだよな……って。
まだ実戦経験が多くないのと、人を守りながらの戦いで、攻撃を躱す時に、服が破けて上半身が露わになることが多かった……。
でもウサギマスク……とかより、ずっとかっこいいよな。悪くない。まさか僕がシックスパックラビットだとは、誰も思わないだろう。落ちこぼれの、この僕が……。
「次はグラウンドで魔法実技だよな?」
「おう、行こうぜ」クラスメイトが話している。
次の授業は魔法実技、か……。周りに気づかれないように、でもやり場のない気持ちをどうにかしたくて、小さくため息をついた。
学校はあまり好きじゃない。魔法についての学習が主になっていて、魔法が苦手な僕には、なかなか大変な環境だ。
「今日は50m先の的に、魔法を当てるテストをします。魔力のコントロールが重要です。では、誰からいきますか?」問いかける先生に、ぼくは目を逸らした。
「じゃあ、おれからやります」
「
「なんたって『炎帝』のスキルだもんな」
突き出した右手に魔力が集中し、火炎玉が放たれ、いとも簡単に命中した。
ほとんどの生徒が成功する中、ぼくが最後だ。
「最後は宇佐美くん、どうぞ」
先生に促され、前に出る。全員の視線が僕を突き刺し、もうどうしたらいいかわからない。火宮くんの映像が頭に浮かぶ。ぼくも火炎魔法でいこう。大丈夫、やればできる、大丈夫……。
手の平に魔力を集中させる。ふー、いくぞ。
ぼくの左手から出た火の玉は、10mくらいで消えてしまった。
「ギャハハハハ!」
「お前すげーな!」
「逆にそれむずいって!」
ドッと笑いに包まれて、ぼくはまた、惨めで暗い世界に落とされる。
「ん? なんだあれ!」1人の生徒が空を指差して言う。何かがこちらに飛んでくる。
「おいおいおいおい、竜じゃないか!?」
「あれは、
先生が空に向かって、赤い閃光を発した。救援信号だ。
「戦闘向きのスキルでない者は、校舎の中へ! 戦える者は、距離を取りつつ救援が来るまで、私とともに時間を稼ぐぞ!」
ドドンッ!
4体の火竜が、グラウンドに着陸するのを後ろに見ながら、僕は校舎へ駆けていた。
校舎から戦況を見守る。先生の指示の元、上手く距離を取りながら戦っているのがわかる。このまま耐えらそうだ……。
そう思った矢先、2体の火竜が空へ。魔導士が指示を出しているようだ。上空から火炎玉が降り注ぐ。そちらに気を取られれば、地上からの攻撃が捌ききれない。どんどん追い詰められているのが、ここからでもわかる。これはまずいぞ、早く誰か来てくれよ。
……いや、誰かじゃない……ぼくが行かなきゃ!
教室まで全速力で駆け抜け、リュックからマスクを取り出す。
マスクを被り深呼吸をする。速かった鼓動のリズムが落ち着いて、視界がクリアになる。
「ふーっ。よしっ」
グラウンドに戻ると、戦況は明らかに悪化していた。数人の生徒が負傷している。それを庇うように戦わなければならず、もう時間の問題のように見える。
ぼくが助ける。
ドコッ!
全力ダッシュから、地上にいる火竜の横っ面に、飛び膝蹴りを浴びせる。
「ギャーッ」火竜が声を上げて倒れ、霧散した。
「なんだ!?」
「あ、あれは、噂のシックスパックラビット!?」
「本当にウサギのマスクだ」
「マジでシックスパックじゃん」
「一撃で火竜を倒すなんて……」
「きみ、ありがとう! 助け立ち感謝する! 救援信号は出している。このまま共に戦ってくれるか!?」先生からこんなことを言われる日が来るとは……。
「もちろんです!」
「ありがとう! きみが一番攻撃力が高そうだ。私たちがサポートする!」
「お願いします!」
「ぼくは、地上の奴をやります」
「わかった。皆! 空中からの攻撃を防ぐぞ!」
先生たちは空中に浮かぶ火竜に向かって、集中攻撃を仕掛ける。上からの火炎玉を全て打ち消してくれている。いまのうちに、こいつを倒す。
地上の火竜に向かって走り、飛ぶ。蹴りを入れるモーションに入るタイミングで、横からすごいスピードで尻尾が飛んできた。
「っく」当たる寸前に何とか身体を仰け反らせた。ぼく自身へのダメージは回避したが、硬い鱗で覆われた尻尾に掠っただけで、服がボロボロに破けた。
あぶない、口からの炎に気を取られていた。相手をよく見なければ。近くで対峙すると、額に汗が。4メートルはあろうかという巨体に、強いプレッシャーを感じる。そして、炎の熱気で皮膚がジリジリと焼けるような感覚がある。
トントントン。軽くジャンプし、リズムを整え、構える。
お互い仕掛けるタイミングを図る。
バンッ!
上空で魔法がぶつかる大きな音が合図となった。
火炎ブレスを右に躱すと、即座に右から尻尾が。その尻尾をジャンプで避けると同時に、尻尾を踏んで、さらに上に飛ぶ。顔に蹴りがヒットした。
よろめいている間に着地し、スティールステップで一気に間合いを詰める。そして、腹部に拳を放つ。
ドスッ!
火竜は声も出ず身体を丸め動けない。間髪を入れず、距離のないところから、またしても腹部に拳を立てる。ワンインチパンチ!
バンッッ!!!
火竜はパンチの衝撃で、口から血を吐きながら後ろに大きく吹っ飛び、地面に横たわり、霧散した。
「すげぇ……」
「つ、強い……」
「腹筋バッキバキだ……」
「シックスパックラビット、納得だわ……」
敵も味方も時が止まったかのように、ぼくに視線が集中しているのを感じる。マスクをしていると、心も身体も強くなる。力が湧いてくる。
――空の飛竜が先に動き出した。2体で、火炎玉を連続で発射してくる。
「火宮くん、大きな火炎弾を!」先生が叫ぶ。
「はい!」火宮くんは、魔力を集中し飛竜に向かって火炎弾を放つ。と同時に、先生が大きな水球を放った。飛竜の近くで火炎弾と水球がぶつかり、爆発した。
ドーーンッッ!!
「水蒸気爆発だ。ダメージは限られるだろうが、この煙幕の間に一斉攻撃だ!」先生が指示を出す。
魔法の集中砲火を浴びせる。すると、煙幕を吹き飛ばすように巨大な火炎玉が飛んでくる。
「なっ」
「でかいっ!」
「逃げろっ!」
「火炎弾!」火宮くんが、火竜の火炎玉に向け、魔法を放った。
バーーンッッ!!
爆発音を轟かせ、相殺に成功した。
「火宮くん、さすがだ」
「危なかった……」
「煌大、頼りになるな」
爆発で生じた煙が消えると同時に、火竜の巨大火炎玉がまたしても襲いかかってくる。
「また消してやるよ」火宮くんは、先程と同様に火炎弾を放った。
その瞬間、もう一体の火竜が地上に急降下し、火宮くんの正面から火炎玉を発射した。
ぼくは瞬時に駆け出し、愕然とした表情の火宮くんにタックルし、すんでのところで火炎玉を交わした。
「くっ、放せ……。いや、すまん、助かった」
「うん」
地上に降りてきた火竜に向かって、駆け出す。また飛ばれたら厄介だ、いまのうちに。
駆けるスピードを落とさず、飛ぶ。身体を回転させながら、体重を乗せた蹴りを頭にヒットさせる。
ベコンッ!
残るは火竜1体と魔導士だけだ。
魔導士。魔法を使う人型の魔物として知られていて、群れを成すことはないと習ったが……。それに、あの杖の先の水晶のようなものは一体……。
こちらを警戒してか、さらに高度を上げた。こちらの攻撃を避けるように旋回しながら火の玉を降らせてくる。しかし、手数でこちらが圧倒しており、このまま凌げそうだ。
突如、魔導士が、杖をこちらに向ける。そして、杖の水晶が強い光を放つと、空気が震えた。
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