第六話 狙うは装備

環境は乱雑。


轟く声の中声高にして驚く姿が一人。


 「何にぃ!!予選の予選の序戦がまだあるとぉおおお!!」


 フォンの叫びが、受付前の騒音の中でも妙に明白に響いた。


 「当たり前であろうよ。見ればわかる強者が集まる大会で、いきなり本戦に行けるわけなかろうよ。」


 レイは、長蛇の列を前にしても微動だにしなかった。

 周囲の猛者たちは、各々の武器や外骨格を調整しながら、ぶつぶつ文句を言ったり、逆に興奮して暴れたりと、混沌そのものだった。


プリプリマンこと、フォンはこいつ周りの気を悪くしないように御立ててるのか?と思って目を細めて言う。


 「……で、その予選の予選の序戦って何すんの?」


 列を進めながらヤマが尋ねると、声を出していた存在、司会者と言うべきか、その存在の高台のしたの受付の机に座っていた、女、係員の女だろうか、彼女が、投げやりな口調で答えた。


 「簡単ですよ。“歩き方の審査”です。」


 「歩き方!?」


 フォンが叫ぶ。


 「いやいやいやいや、ふざけてんのか? なんで歩き方なんだよ!」


 「ふざけてません。“強者識別区分法”に基づく簡易審査。

  摩擦音、姿勢、気配。それだけで大体の階級が分かりますので。」


 女は慣れた手つきで紙束をめくりながら続ける。


 「序戦の結果で、あなたが“どの規模の予選”に回されるかが決まります。」

 「ふざけてねえか、それ。」


 「ふざけてませんってば。……ほら、次の方どうぞー。」


 列がぐんと進む。

 前にいた外骨格武闘者が、妙に静かな足取りでカツ、カツと歩いて見せると、審査員らしき男が首をかしげた。


 「雑音だな。はいお前“第三十予選”。」


 「三十ってどこだよ!」


 「ここから見て左手に、その扉の歩いた先。荒野です。」


 「荒野ァ!!?」


 外骨格武闘者が泣きそうな声で叫びながら去っていく。


 それを見送ったレイは、小さく鼻を鳴らした。


 「……なるほど。雑魚が、しかしやはりこの大会、侮れん。」


 「何が侮れんだよ。歩き方テストだぞ?と言いたくなるが、まずいのか?レイよ」


 フォンの声を聞いてそうするとレイは、極めて真面目な顔で言った。


 「思い出せ、フォン。摩擦音は雷鳴だと言った。

  強者は歩くだけで“何者か”が分かる。」

  

「覇大王の領では、これがわかり...それを制度にしている。」


 「どうやら伝承あり!……。」


「はい次の方!」


 「さぁ、次だ。行け、フォン。」


 「俺か!!?」


 押し出される形で、フォンは審査官の前に立つ。


 審査官は、黒い布で覆われた机に腕を組み、無言で顎をしゃくった。


 「歩け。」


 「…………」


 フォンは一歩、踏み出した。


 ――床を弾く、ザッという摩擦音。


 「……ふむ。」


 審査官の眉がわずかに跳ねる。


 フォンはさらに一歩。

 レイが言っていた“内側”に意識を向け、胸の奥で鳴る感覚を掴みながら踏み込む。


 ――ザッ、ッザ……。


 審査官が目を見開く。


 「……おい、お前。」


 「何。」


 「妙に音が不安定だな。“強くなりかけ”の音だ。」


 「しては?」


 「微妙だ。だが悪くねぇ。はい、お前“第五予選”。」


 「五!?急に近ッ!のか?どう言う意味だろうか?聞いてしまったが、教えてもらえてくれんかな?数字の意味を」


 列の後ろの武闘者たちがざわつく。


 「おい第五だとよ……上位じゃねえか……」

 「ありゃ若造に見えるが……何者だ?」


 「へ……へへへ。」


 ヤマは妙に誇らしげにしている。


 レイが言った。


 「慢心するな。たかが予選して、いた第五でも端だ。ここから本番だぞ。」


 ヤマは軽く笑いながら肩を叩いた。


 「でもすげぇよ。第五なら十分上だろ。」


 「まぁ……悪くはない。」


 レイとヤマの少し面白い掛け合いにフォンは鼻を鳴らしながら受付へ行き、登録証を受け取った。


「こちらをどうぞ」


(礼儀いいなここ」


 受付を抜けてしばらく歩いたところで、問題に気づく。


 「……待てレイ。」


 「なんだ。」


 「俺たち、装備……ないよな?」


 レイは静かに目を閉じて言った。


 「あるさ。拳と足と気だ。」


 「じま!無いのと同じだよ!!」


 ヤマも同意する。


 「この大会、ルール上は装備持ち込みOKなんだろ?見たんですぜ兄貴!」

  

「そうだな...ヤマの言うように...外骨格とか武器とか……必要じゃね?」


 すると周囲で聞いていた行商の男が口を挟んだ。


 「お客さん、いい外骨格ありますぜ。

  耐久、二分! 重量、充分! 値段、二十万!!」


 「高い!!」

(よくは知らんが言えば値引きしてくれるだろう!あと単位が知らん!)

 さらに別の露店が叫ぶ。


 「刀!槍!鉄拳義肢!脳波衝撃器!どれも最高品質!!壊れません!!」


 「ふむ」


 「ここは我らが偉大なる覇大王領だぞ。品質完璧しかない!こんな世の中だ、財産より装備だ!どうか買って買って!!」



 「何で...買えばいいんだ?」


フォンは小声でレイに聞く。


 レイは腕を組み、短く言う。


 「買わなくていい。」


 「?」


クイ


 レイが顎で示した先、雑多な武器商人の群れの向こう側、大会の説明を聞いていたやつらから、ひそひそ声が漏れ出してくる。


(ん?気になる話がするぞ)


してフォンが聞くと。

 「……まただとよ……」

 「昨日も三人行方不明らしい」

 「実験だ、実験。あの錬金術師の……」

 「第五予選の裏路地でよ……解剖されかけた奴とかされたやつもいるってな……」

「錬金術師ってなんだよ」

「全員殺すぞ!!!!」


 ヤマとフォンは顔を見合わせる。


 レイは静かに言った。


 「……装備に困るなら、奪えばいい。」


 「ええ!?」


 「殺さずとも叩き伏せればいい。

  悪徳錬金術師というならなおさらだ。

  どうせ奴は、試作品か違法兵装を抱え込んでいる。」


 フォンは喉を鳴らす。


 (……いや待て。確かに悪党倒すのは正義っぽいが……そうじゃない、面倒ごとを先にして目的...いや待て確かに俺の目的は...には違反してはいない....まさかこれも試練?実力を上げられると言うわけか?)


 ヤマがため息をつく。


 「奇声やろう!あんた!さっきからでしゃばりすぎだろう!兄貴が欲しいなら買えたごるああああああ!」


 「フッ」


「いいいい、い、いま!笑いやがって!!!!うぉおおおお!」


「黙れたわけ」


「んんっッッむむむ!!!」


 「ほざくな弱者」


 二人の論争を背景にフォンは考える。


 (……装備があるに越したことはない……

  しかしあいつらの話、まずい匂いがする……

  裏路地で実験? 行方不明?)


 そして――決めた。


 「よし。倒して奪う。」


 「言い切ったな。」


 「悪党なんだろ?だったら関係ない。」


「他のやつが来てもいいのか?」


「俺たちをついでに殺すつもりならば全滅だ、やつらを」

 レイは満足げに頷く。


 「そういう心が強さへ向かう。」


 ヤマは肩をすくめた。


 「……なんでおまえがかしらみたいにするんだおい。」


 レイが前を指さす。

「行け」

 フォンは深く息を吸った。


 「行くか。」


「ええ?!兄貴?」

 雑踏の奥――

 喧騒の裏にある暗がりへと、三人は足を踏み入れた。


 「場所わかんなくねぇか?」


「....おい!奇声やろう!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

修羅神 不病真人 @SINJIN312

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ