第15話 カップ焼きそば
凹花を見送った後、帰路についた二人は自分たちもお腹がすいていることに気がついた。
「家で焼きそば食べる?」
「それはいいアイデアなのじゃ!」
「外食もいいと思ったけど、なんか焼きそばの気分になっちゃったね」
「そうじゃのう」
二人の頭の中には、美味しそうに焼きそばパンを頬張る凹花の姿があった。
「私、カップ焼きそばはこのガッツ盛りが好きなんだよね」
千夜子の言う『ガッツ盛り』というのは商品名である。
「からしマヨネーズがよいアクセントになるやつじゃな」
「食べたことあるの?」
「うむ。誕生日に出してもらったことがあるのじゃ」
魔界では人間界の製品は高額になる。それを考えれば誕生日にガッツ盛りというのもあるのだろうなぁ……と千夜子は思う。
「ただいま~」
「ただいまなのじゃ」
誰もいない家に二人で帰って、同時にただいまを言う。それから手洗いうがいをして、楽しい焼きそばタイムが始まった。
「お湯が沸くの待つのがつらい!」
「なるほど、調理にお湯をつかうのじゃな」
「作るところは見たことないんだね」
「うむ。皿の上に乗ったものしか見たことがない」
「じゃあ今日はじっくり見てね。すごいよ、カップ焼きそばの技術は。そうだ、一緒に作ってみようか!」
電気ポットのお湯が沸くまで、あと一分。
「そこに爪をひっかけるとあけやすいよ」
「なるほどなのじゃ」
千夜子とエリザベートはそれぞれのカップ焼きそばの外装を剥がす。
「この三袋を取り出してね。あ、フタは途中までしか開けちゃだめだよ」
「うむ」
見よう見まねで準備を進めるエリザベート。
「そうそう、先に入れるのはかやくだけ」
「この乾燥した植物じゃな?」
「うん、危ないからお湯は私が注ぐね」
調理台は、背の低いエリザベートにとっては作業しづらい場所だ。
「あとは何をすればよいのかのう」
「フタの上にソースをのっけて待つ! 我慢できなくて早く手を出しちゃうと麵が硬いままだから」
「待つのが大切なのじゃな」
「うん。お湯を入れて三分間だから、あと二分四十秒くらいかな?」
エリザベートは壁掛け時計に目をやる。
「しかし、この待ち時間。どうもソワソワするのう」
「うん、ソワソワするんだよねぇ。早く食べたくなっちゃう」
残り時間はまだ二分三十秒ほどある。
「でも手を出したらいけないんじゃな?」
「そう、手を出したらいけないんだよ。あ、待ってる間に飲み物いれようか。エリザちゃん、麦茶でいい?」
「麦茶ってなんじゃ?」
「おいしいよ。焼きそばの味を邪魔しないから、いいと思う」
「じゃあそれでよろしくなのじゃ」
「あ……」
冷蔵庫を開けた千夜子が固まる。中に、麦茶がないのである。
「ごめんね。これでもいいかな?」
千夜子が麦茶の代わりに冷蔵庫から取り出したのは、コーラであった。
「それはなんじゃ?」
「コーラだよ。麦茶と違ってすごく主張が強いんだけど、それがまた焼きそばに合うんだよ。あ、エリザちゃん炭酸大丈夫?」
「炭酸はゆっくり飲めば大丈夫じゃ」
「よし! なら今日は焼きそばとコーラの
「もう食べれるのか?」
「いや、ここからも重要なんだよ」
そう言って千夜子は湯切り口を開封する。
「まずはお湯を捨てます。シンクを傷めないようにお水を流しながらね」
「ふむふむ」
水道の蛇口を開け、水を流しながら湯を捨てる。それから、割り箸を取り出しフタの裏についたかやくを麺の上に落とす。
「エリザちゃん、これ少しかき混ぜて湯気を逃がしてくれるかな?」
「湯気を逃がす?」
「そうそう。お箸で麺をかるく持ち上げたりかき混ぜたりしてね」
千夜子がテーブルの上に置いた焼きそばを、言われた通りにかき混ぜるエリザベート。麺の隙間から湯気が立ち上りなんとも言えない優しい匂いが広がった。
「上手上手! さて、ソースをかけるよ」
「やってみたいのじゃ」
「うん、こぼさないようにね」
液体ソースの袋を丁寧に破り、麺に零すようにかけていく。
「うわ、手についちゃったのじゃ」
「舐めちゃえ」
「うむ、うまい!」
口の中に濃いソースの味がガツンと広がる。
「さて、仕上げだよ。しっかりかき混ぜてソースを馴染ませて」
「了解なのじゃ!」
最後に、付属のからしマヨネーズをかけて完成! ここに、エリザベート人生初のカップ焼きそばづくりが完了した。
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