第14話 魔界犬

 突如聞こえた唸り声にエリザベートは魔界の犬を連想する。


「まさか……千夜子、下がっておれ」

「え?」


 あの危険な生物が人間界にいるはずはない、そう思いながらもエリザベートは身構えた。自分はまだしも、万が一千夜子に危害が及んだら…………。


「ぐぅうるるる」


 再び聞こえる、地獄の底のような響き。


「ぐぅうううう」

「なんじゃ、そういうことか」


 エリザベートはようやく気づく。その音は悪魔祓師の少女の腹の音だと。


「き、聞かないでください!」

「なんじゃおぬし、そんなに腹が減っておるのか」

「み、三日くらい食べてないだけです!」

「こ、これ食べる?」


 千夜子は思わずドラッグストアで買った、焼きそばパンを差し出す。


「くっ……そんな誘惑! 私を手懐けようとしても無駄ですよ!」

「いや、そういうつもりはないから」

「悪魔め!」

「いや、私は人間だけど……気にせず食べていいよ」


 千夜子は半ば強引に焼きそばパンを手渡した。


「私は悪魔と仲良くするつもりはありませんからね! 次は祓う! 絶対に! うっ……」


 また、魔界犬のような腹の音。


「とりあえず食べたらどうじゃ」

「い、いただきます」

「のう、おぬし。名前は?」

「はむっ! むぐ! 新城、新城しんしろ 凹花おうかです」


 悪魔祓師の少女、凹花は焼きそばパンにがっつきながら名乗る。


「そうか。凹花、我はエリザベートじゃ。我は人間に危害を加える気はない。わかってくれぬか?」

「ごちそうさまです! 次は、次は無いですからね!」

「話が通じないやつじゃのう」

「今日のところはこれで! 次は、次こそは祓いますから!」


 凹花は去り際に三度振り向き、その度に千夜子に頭を下げながら姿を消した。

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