第9話 はじめてのおでかけ

 昼食の時間になる前に、二人は出かけることにした。せっかくのおでかけ、外でなにか食べようという計画である。


「かわいいね、その服」

「ありがとうなのじゃ。これは我も気に入っておる」


 控えめなフリルのついた黒いワンピース、靴下も靴も黒で揃えたエリザベートはとても上品に見えた。


「じゃあ行こっか」

「ちょっと待ってほしいのじゃ」


 玄関をあける直前。エリザベートが小さな手で自身の右目を覆う眼帯に触れ、赤い魔法陣を発生させる。


「魔法?」

「他人から気にされない魔法をかけておる。子どもが黒くて大きな眼帯をつけてたら目立つじゃろう?」

「なるほどね」


 魔王の娘としての力を封印した右目。眼帯を外すわけにはいかない。


「まあ、我は目立つことにはなれてるのじゃが」

「お姫様だもんね。ありがとう、気を使ってくれて」

「べ、べつに千夜子のためじゃないのじゃ! ただ、出かけるならゆっくり楽しみたいと――」


 焦るエリザベートの頭を千夜子が撫でる。


「さて、行こうか。入ってみたいお店とかあったら気軽に言ってね」

「ありがとうなのじゃ」


 エリザベート、人間界でのはじめてのおでかけが今はじまる。

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