第7話 枕

 千夜子はエリザベートと自身の髪を乾かし終えると、布団を敷いて寝る準備をする。


「一人用の布団だけど、エリザちゃん小さいしなんとか一緒に寝れるかな?」

「うむ、問題ないのじゃ」


 小柄なエリザベートと、やせ型の千夜子は余裕でシングルの布団に収まった。


「枕も一つしかないんだけど、エリザちゃんの枕はこれでいいかな?」

「これ?」

「エリザちゃんの枕は、私の腕」

「…………」

「あれ、ごめんね。嫌だったかな」


 ただの幼い少女に見えても、魔王の娘。プライドを傷つけてしまったかと、千夜子は焦る。


「…………のじゃ」

「ごめんね」

「……すごく…………のじゃ」

「?」

「すごく、嬉しいのじゃ」


 エリザベートは布団の中に潜り、千夜子に抱きついた。


「明日は仕事休みだから、お出かけしようか。二人暮らしに色々必要なものがあるだろうし」

「う……うむ」


 千夜子は腕を伸ばし、エリザベートは頭を乗せる。


「もしかして、休みの前日を狙って来てくれたのかな?」

「うむ。翌日も仕事だと迷惑かと思って……」

「ありがとう。エリザちゃんは優しいね」

「わ、我は魔王の娘ぞ。優しくなんか……」

「優しいよ」

「本当に優しいのは千夜子じゃ」


 布越しに伝わる体温が少し高い。千夜子は枕にしていないほうの手で、エリザベートの肩のあたりを優しくトントンと叩く。


「寝れそう?」

「もう少し、かかりそうなのじゃ」

「じゃあ、少しお話しようか。聞かせてくれるかな、魔界のこと。いや、私はエリザちゃんのことが聞きたいかな」

「うむ。我は――――」


 時刻は、午後十一時を過ぎたあたり。

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