第2話 赤い魔法陣

 真っ赤な魔法陣が、まるでデータの転送でもしているかのように点滅している部屋の中で、千夜子は改めてエリザベートの姿を見た。


 まるでこの世のものとは思えない美しさがあった。


 髪は櫛を通す必要などないほど滑らかで、白い肌はまるで人形のよう。黒い瞳は深く、見るものを吸い込んでしまいそう――――それ故に、右目を隠す眼帯が気になった。


「どうした? 我の眼帯が気になるか」

「あ、うん」


 視線の向く先に気づいたエリザベートは、細い指で眼帯を差してそう言った。


「これは封印じゃ。我の力は強すぎるからな。人間界に来るにあたり左目に力を集め眼帯で封印したんじゃ」

「外したら大変なことになるの?」

「なる」


 ごく普通の眼帯一つとは……なんて甘いセキュリティなんだと千夜子は思う。


「案ずるな、そう簡単には外れん。というか、千夜子やけに冷静じゃなぁ。いきなり我が来たことにもう少し驚いてもいいんじゃぞ」

「あーうん。なんか……なんでだろうね」


 目の前のあどけない少女を悲しませてはいけない。突然のことに焦りながらもどこか、そんな気持ちになるのである。


 その時、部屋の中を赤く照らし続けていた魔法陣が消えた。


「契約の処理が終わったようじゃな」

「なんかコンピュータみたいだね」

「人間が作るコンピュータのほうが性能が良いのじゃ。我が魔王になったら、たくさん輸入するつもりじゃ!」

「ちょっとまって、魔界と人間って貿易でもしてるの?」

「そのとおりじゃ。だから我もこうして社会勉強にきておる。トップシークレットじゃぞ」


 千夜子はようやく冷静になった。自分がとんでもないことに巻き込まれたと――。


「なんで、私なのかな?」

「占いで決まったのじゃ。詳しいことはわからん」

「あ、あはは。そっか……ところでなんて呼べばいい? やっぱりエリザベート様?」


 千夜子は気づく。ナチュラルに魔王の娘にタメ口をきいてしまっていたことを。


「様はいらぬ。我とおぬしは対等じゃ。いや、居候だから我が下か」

「下、とかはないと思うけど。うーん、じゃあ、エリザベートちゃん……いや、エリザちゃんでどうかな?」

「て、照れくさいがかまわんぞ」


 エリザベートは顔を真っ赤にして俯いた。

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