居候は魔王の娘〜ほのぼのドタバタ二人暮らし〜
寝転寝子
おかえりと居候
第1話 魔王の娘
「ただいまー」
1DKの単身者用アパートに住み始めて、もう五年になる。その間、一度たりとも「おかえり」と返ってきたことはない。だが、この日は違った。
「おかえりなのじゃ」
「おかえりなさいませ」
千夜子の背筋が凍る。彼女は一人暮らし、合鍵を誰かに渡したこともない。
「え、なんで? 逃げなきゃ……」
頭の中に様々な事件のニュースがよぎる。にも関わらず、足が勝手に動いて靴を脱ぎ、部屋へと入っていってしまうのだ。
「おかえりなさいませ、千夜子様」
「えっと、あなたたちは」
部屋の中には二人の人物が正座していた。一人はランドセルが似合いそうな小さな少女。黒いつややかな髪に黒曜石のような瞳。右目を眼帯で隠されていながら痛々しさを感じさせないのは、その凛と伸びた背筋のせいか。
もう一人は、あからさまな執事。もうどこから見ても執事。少女のお世話係……といったところであろう。
「千夜子様、あなたには今日から魔王の娘であるエリザベート様と暮らしていただきます」
淡々と説明する執事だが、千夜子は意味がわからない。せいぜいわかるのは、この幼い少女の名がエリザベートというくらいである。
「あの、意味がわからないのですが」
聞くしかない。もう、尋ねるしかない。
「拒否権はありません。魔界と人間界のために、エリザベート様に人間がどのようなものか知っていただく必要があるのです」
「はぁ」
「これは日本の上層部の方々も了承済みの大切な――」
なぜ私が? 千夜子の頭が混乱でパンクしそうになったとき、エリザベートが口を開いた。
「我と暮らすのは嫌か千夜子」
「え、嫌じゃないけど」
半泣きの顔を見て思わずそう答えてしまった瞬間、部屋の中に真紅の魔法陣が広がった。
「なに? なに?」
「承諾ありがとうございます。契約成立ですね。では、私はこれで」
ドロンと深紫色の煙に変わり、姿を消す執事。室内には真っ赤な魔法陣の上にいるエリザベートと千夜子の二人だけとなった。
「千夜子、これからよろしくなのじゃ」
「よ、よろしく……」
こうして、奇妙な二人暮らしが始まったのである。
「ちゃんとカーテンは閉めてある。安心するのじゃ」
一瞬なんのことかよくわからなかったが、魔法陣の光についてであると気づく。たしかに、こんな時間に部屋が真っ赤に光っていたら不審極まりない。
「この赤いやつは消えるのかな?」
「大丈夫じゃ。今契約を処理してるから、あと三十分くらいで消えるぞ」
千夜子は職場の型落ちパソコンのことを思い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます