第15話
宿泊学習も終わって、明日からまたいつも通りの学校生活が始まる。
私は朝から鏡の前で、一生懸命慣れないヘアアレンジをしていた。
(今日は休日だからね〜)
いつもは低めの位置で二つに結んでいるだけの髪を少しアレンジしてみる。
たまにはイメージチェンジもありかな〜って。
ローテーブルの上に散乱するのは、百均で買った髪ゴムとリボンやシュシュなどの飾り物にスマホ。画面には『超簡単!ヘアアレンジ四選!』の動画。
その動画を頼りに、慣れないヘアアレンジをしていた。
(簡単って書いてたよね!?ねぇ!!)
動画の人は、ひょい!って感じで結んでいたハーフアップも、私がやればもしゃってなる。
「何でぇ!?何で言うこと聞いてくれないの?私の髪って、反抗期なのかなぁ......」
思わずブラシをベッドの上に投げた。
その時、勝手に部屋の扉が開いた。
「何朝っぱらから騒いでんの?馬鹿なの?」
せっかくの睡眠を邪魔された変成くんが不機嫌そうに嫌味を吐く。
「変成くん!?入ってくる時はノックしてよ!!」
「お前がうるさいから起きただけ......」
変成くんはふら〜っと近付いてきて、机に散乱した物と私の頭を見た。
「何それ......巣?」
「努力の結晶だよ!!」
「努力は見えるけど、結果が酷い」
「私は変成くんが酷いと思う......」
変成くんが頭を搔きながら動画を見て吹き出した。
「秦に簡単アレンジは難易度高いでしょ」
「ぐっ......言い返せないのが余計辛い」
変成くんもヘアアレンジができる訳じゃないので、とりあえずもうそろそろ来るであろう初江王を待った。
初江王は少なくとも私達よりヘアアレンジが上手だから、何とかしてもらおう!
完全に他力本願になってしまっているが気にしない。
「何だ、その頭は」
初江王は私の絡まりまくった髪を見るなり、そう言った。
変成くんが笑いを堪えながら説明すると、ため息をつきながらブラシで髪の毛をとかしてくれる。
(優しい!!!)
オムライスはリビングで変成くんとボールで遊んでる。
「そういえば宋は?」
「ああ、あいつなら出店するとかで珍しく早めに行ったぞ」
「え!?宋が!?あの変成くんとツートップで朝の弱いあの宋が!?」
「ああ」
「えー、珍しいこともあるんだね」
「それはそうと、秦。一体どういう風に結んだらこんな絡まるんだ」
「あはは......不器用って辛いね」
その後、綺麗なハーフアップをしてもらい、そろそろ出掛ける準備をする。
そう、今日は『地獄祭』(通称:じごさい)!本来、お祭りって言えば夏にあるイメージが強いんだけど、盂蘭盆以外のお祭りは結構主催者の気分次第によって時期がバラバラ。
今のような中途半端な時期にすることもあるし、真冬でお鍋つつき会をしたこともある。
用意を済ませ、家を出ようとした時、カバンのキーホルダーが傘立てに引っかかって前のめりに倒れ......
ガッ!
「〜〜〜っ!!」
ドアに思いっきり顔をぶつけた。
(今日の私の運勢......悪いみたい。星座占い最下位だったからかな?)
じごさいの会場となる黒縄地獄に向かう。
ずらっと並ぶ出店は、まだ準備段階らしいので、宋が出店しているという『現世カフェ』に寄ることにした。
現世カフェというのは、宋がバイトしているカフェのメニューを振る舞うという店で、人道に行ったことのない獄卒達からは人気が高い。
「俺、アイスカフェラテね」
変成くんが長椅子に座り、注文をする。
「まだ準備なんだけど〜......まぁ、はい」
ブツブツ文句を言いながらも宋はカフェラテをカウンターに置く。
「今年は出店したんだ。暇なの?......このラテまず」
「まさか、ラテに醤油ぶち込んだのバレて......!?」
宋がハッとした瞬間、物凄いスピードで変成くんがラテの入っていたグラスを宋に目掛けてぶん投げた。
「ぐえ......」
見事に額に命中して、宋はカウンターに突っ伏した。
そして時間は過ぎていき、気付けば夕方になっていた。
提灯が並ぶ黒縄地獄の参道。
あちこちから立ち上る煙と香ばしい匂いが、熱気を帯びた夜風に混ざって漂っていた。
私はうきうきしながら足を進める。
提灯に照らされた露店がずらりと並ぶ。
看板には『亡者焼き』『血の池亡者釣り』など、どう見ても物騒な名前が並んでいる。
まぁ、死んでもまた生き返るし体の一部さえ残ってたら大丈夫か。みたいな感じだと思う。
宋のカフェで午前中とお昼に居座っていたので、大丈夫かな〜って。あ、でもちゃんと注文もしたよ!
とりあえず、今回のお目当てである亡者焼きに向かう。
現世での焼き鳥みたいな扱いで、老若男女問わず人気で種類豊富。
「おっちゃん!亡者焼きのタレと塩を二本ずつちょうだい!」
「あいよー」
威勢の良い声と共に、香ばしい煙がふわりと鼻先をくすぐった。
目の前で焼かれている亡者焼きは、じゅうじゅうと音を立てながら脂を落としている。
「見てるだけで美味しそう......!」
思わず手を合わせてしまう。
近くの長椅子に腰掛け、渡された串を熱々のままふうふうと息を吹きかけて一口。
「ん〜!タレの香ばしさが最高!ご飯が欲しくなるなぁ」
めっちゃ美味しい!
……と、その時。
「おーい、おーい」
木々の間から、頭に小さな
「......なんだよ。ここにもいないのか」
「どうしたの?誰か探しているの?」
「あ、人がいた!」
男の子は私に気づくなり、こっちへ近づいてくる。
「お姉ちゃん、おれの弟見なかった?おれと同じで藍色の着物を着ているんだけど......」
「ううん、見てないよ」
「そっか......」
しょんぼりする男の子。
「はぐれたの?」
男の子はこくこくと頷く。
「うん......。喧嘩したら、あいつ走っていなくなっちゃったんだ」
「そうなんだ......」
これだけ人が多いと、一回はぐれたら探すのも大変そう......。
男の子は小さい手をぎゅっと握りしめ、涙を滲ませる。
「よしっ」
私は串をゴミ箱に捨て、立ち上がった。
「じゃあ、お姉ちゃんも一緒に探そっか?」
「えっ……良いの!?」
「もちろん!」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
私は男の子に向かって手を差し出す。男の子は満面の笑みを浮かべて手を握った。
屋台が並ぶ表通りを男の子を一緒に歩く。
「ここには、いないね......」
(早く見つけてあげたいんだけど......)
弟くんを探して歩くのは良いけど......全く見つからない!!
どうしよう......このまま見つからなかったら。
「何してんの?」
人混みの中からコロッケを食べていた変成くんが現れた。
「うわっ!」
「うわって......そんな驚くことじゃないでしょ」
変成くんは私と手を繋いでる男の子に気づき、私を見た。
「迷子?」
「うん。弟くんとはぐれたみたいで......」
「ふーん......」
変成くんはコロッケを片手に、じろりと男の子を見つめた。
「弟ねぇ……この人混みじゃ、そりゃ見つかんないよ」
変成くんは肩をすくめ、辺りを見回した。
「弟の特徴は?」
男の子はぴんと背筋を伸ばして答える。
「おれと同じ藍色の着物で、角が少し短いんだ。それと、髪が......これよりちょっと明るい!」
男の子は自分の髪を指差した。
「俺も探すよ。人手が多いほど見つかるのも早くなると思うし......」
「本当!?」
変成くんも一緒に探すことになった。
「弟と喧嘩ねぇ......まぁ、見つからなかったら迷子アナウンスしてもらえば良いよ」
「あ!」
不意に男の子が声を上げて立ち止まった。
「きれーな風車......」
「本当だね。色んな色がある!」
屋台に並ぶ色とりどりの風車。赤、青、黄色、沢山の色が風に吹かれてカラカラと音を立てて回っている。
「欲しいの?」
「......ううん。弟に悪いからさ」
そう言いながらも、視線は風車に釘付けだ。
「ちょっと待ってて」
変成くんは風車を二本買い、男の子に差し出す。
「弟を見つけたら渡すと良いよ。仲直りの口実にもなると思うし」
「......ありがとう!!」
二人の様子が微笑ましくて、思わず頬が緩む。
「良かったね、きっと喜ぶよ!」
「うん!」
男の子は大事そうに風車を帯に差した。
しばらく三人で歩きながら探し続けていると......
「あ!あっちから弟の声が聞こえてくる!」
男の子は繋いでいた手をパッと離し、道の向こう側に走っていく。
「あ、見付かったみたいだね」
男の子は少し離れたところで弟らしき男の子と話している。
「お姉ちゃんとお兄ちゃん、本当にありがとう!!」
「気をつけてね〜」
男の子達と別れ、二人で屋台を巡る。
「......で、そのくじ券はどうするの?」
「もちろん!やる!!」
屋台で買い物したら短冊のような色紙が一枚配られる。それを五枚集めたらくじ券と交換してくれる。景品は『お肉三キロ』や『温泉旅行券』などの豪華景品!
「……っと、ここだね!」
私達は『地獄くじ引き堂』と書かれた屋台の前に立った。
そこには、色紙をくじ券に交換しようとする人達の長蛇の列が。
(やっぱりみんな、考えることは一緒か......)
もう少し早く来てれば良かったと少し後悔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます