リスタート

 夢を見た。


 私がのどかに責められている夢。のどかが苦しそうな夢。いつも、いつもいつもいつも、こんな夢を見る。のどかと番になったあの日から。


「また。この夢か」


 でも、のどかからしたら、私と番になっている事自体、悪夢か。


 後、身体の節々が痛い。疲れてそのままアトリエのソファーで寝ていたからか。


 でも、まぁ、その甲斐あって、絵は完成した。これで私が請け負っていた仕事は全て終わった。


「……のどかは寝れているかな」


 寝室を覗いて、静かに入り、寝ているのどかを見る。穏やかな寝息が聞こえる。


「良かった。良く寝ている」


 彼女の穏やかな寝顔を見て、安心する。


「今まで手を離せなくて、ごめんね。のどか」


 そう言い残して私は寝室を出た。







「何の準備してるの?」


 いつも私のやっている事に興味が無いのか、特に聞かないのどかが、今日に限って何故か聞いてくる。


「ん? 前見た夜空が綺麗な所にまた絵を描きに明日、行こうと思ってね。その準備だよ」

「……そうなんだ」


 大きいリュックサックにキャンプ用品やら、服を色々詰めていたから遠征すると思ったのだろう。


「一人で行くの?」

「うん。じっくり描きたいから一人だね」


 キャンプのついでに玉緒と武信さんの三人で行った事もあったな。あの時はバーベキューとかして、楽しかったっけ。


「今日は良く聞いてくれるね」

「え、うん。……何となく」


 もしかしてしばらく私が帰らないなら、姉さんと心置き無く会おうと思っているのかな。


 まぁ、私はハッキリとした邪魔者だから、そう思うのも無理ないか。


「そっか。二、三日は帰ってこないと思うよ。納得行くまでとことん描きたいから」

「……美影は絵に真剣、だもんね」


 そう自然に言ってくれたのどかに驚いた。


 あの時から私の事はどうでもいいのだろうと思っていたから。


「絵、……まだ見ててくれたんだね」


 声が掠れる。見てくれていたとは思ってなかったから。


「番だから、そりゃあ見るでしょ。美影らしい良い絵、何となく何処か惹き込まれる様な絵だな、って思ってた」


 どうして、自分の最期を決めた時にそんな事を知ってしまうのか、私の事をまだ見てくれていた事を知るのか。


「そっか。……ありがとう。見てくれてて、嬉しい」


 嬉しい。その気持ちは嘘偽りない。


 嬉しい嬉しい嬉しい。のどかが私の絵をまだ見てくれて、褒めてくれて嬉しい。


「明日から描く絵も良い絵を描くよ」

「……楽しみにしとく」


 でも、最期を決めてしまったから、君に見せられない絵だ。私の自己満の絵になるから。


 この嬉しい気持ちは最期に知れてよかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る