隣の席の主人公くん~クーデレ銀髪ヒロインと茶髪元気っ娘に囲まれて変な部活に入部してるハーレム主人公――が隣にいるんだけど、モブキャラの僕はどうしたらいい?~

嬉野K

ボクをメインヒロインしてください

第1話 ん? なんか言ったか?

「アナタ……本当にバカね」それから彼女は顔を赤くして言う。「でも、そんなアナタを好きになる私もバカよね」


 彼女はシャイな人だ。

 凛として見えるけれど、本当は繊細で恥ずかしがり屋な人なのだ。

 そんな彼女が勇気を振り絞って好きだと言っているのだ。


 返答は……


「ん? なんか言ったか?」


 その返答を聞いた彼女はため息をついてから顔をそらして、


「バカね。本当にバカ」

「悪かったなバカで」

「そうよバカよ。だからこそアタシは好きになった」

「……? ああ、すまん。なんて言った?」


 という会話をしているのが僕――ではなく、隣の席の隠れイケメン主人公くんである。


 ……


 ……


 この隣の席の隠れイケメン主人公くん、さっきから美少女に告白されているというのに……


 なんで聞こえないの? 

 なんで告白の言葉だけピンポイントで聞こえてないの?

 隣の隣の席の僕にまで聞こえてるんだよ?

 別に盗み聞きしてるつもりはないけど、普通に聞こえてきたよ?


 というかこの人たち、休み時間にそんな大切な告白しないでくれる?

 他の人にも聞こえてたと思うよ?

 聞こえてないの隠れイケメンくんだけだよ?


 ……


 休み時間。高校の教室。いつもの日常。

 僕の所属する2年3組の日常というものは、本当に日常という言葉でしか表すことができないほどに日常なのだ。


 僕というモブキャラが最後列の真ん中にいて、その隣に隠れイケメン主人公がいて……窓際に銀髪美少女がいる。

 そんな並び。


 ……


 銀髪美少女が言う。


「ねぇアナタ。文化祭、どうするの?」


 隠れイケメンくんが答える。


「どうするって? 適当にブラブラして終わりだよ」


 銀髪美少女は目を逸らしてから、


「そう……私と一緒に回らない?」

「ん? すまん。なんて言った?」


 耳鼻科に行け。

 耳が悪いにもほどがある。

 告白性難聴だ。

 告白の言葉だけ聞こえないんだこの人。


 銀髪美少女はそんな聴力の悪い男にもめげず、続けようとする。


「もしよかったら……私と――」

「ああ……そういえば七笑ななえから誘われてたっけ。一緒に文化祭を見て回ろうって」


 七笑ななえ……隣のクラスの茶髪美少女、七笑ななえ奈々ななさんか。

 名前のとおりよく笑う女の子である。


 ……

 

 銀髪美少女は一瞬だけ息を呑んでから、すぐにいつもの冷たい笑みに戻る。


「あら、それは良かったわね。七笑ななえさんはアナタにはもったいないくらい良い子だもの。一生に一度の幸運を傍受してきたら?」

「まだ引き受けたわけじゃないけどな」引き受けろよ。「ま、そうだな。他に見て回ってくれそうなやつもいないし、そうさせてもらうか」

「そうね。それがいいわ。アナタと一緒に文化祭を回ろうなんて物好きは彼女くらいよね。大事にしなさい」


 そう言って銀髪美少女は笑うが……少しだけ唇を噛んで悔しそうにしていた。

 おそらく恋のライバルに先手を打たれていて悔しかったのだろう。

 彼女も隠れイケメンくんとデートしたかったのだろう。


 ……


 ……


 これはあれだ。俗に言う【青春ラブコメ】ってやつなのだ。

 それが僕の隣で繰り広げられているのだ。


 これはその主人公たちの青春ラブコメを、僕というモブキャラ視点で見守る話である。

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