【完結】アーデルハイドは知らない─黒髪黒眼なのに期待はずれと追放された魔族は、痛みを以て魔界をぶっ潰します─

米奏よぞら

第一章(九歳)

00.プロローグ

僕の名前はアーデルハイド。


れっきとした魔王の後継者だ。


城の中ですれ違う使用人はもちろん、六人の兄たちも僕の前では頭を垂れる。


それは、僕が至高の黒髪と黒い瞳を持っているから。


たったそれだけの理由で尊ばれた。



「アーデルハイドは特別なんだ」


幼い頃からそう教えられていた。



「お前が兄たちと関わることで彼らの卑しさが引き立ち、笑われてしまうよ」


そう言われたから兄たちとは関わらなかった。



「お前が誇らしい」


魔王は赤い瞳を和らげて、いつもそう言っていた。

彼だけは、僕自身を認めてくれていると信じていた。



でも、僕に魔力がないって分かった途端、皆の態度が一変した。



「黒の瞳を持っていながら魔力量0とは、とんだ恥さらしだな」


数年ぶりに対面した長兄の言葉に、胸がきつく締め付けられた。



あまりの居心地の悪さに街へ逃げると、瞳の色ですぐにバレて笑われた。


「初代魔王の再来と言われていたのに、ただの無能じゃねえか」



魔界がこんなにも醜い場所だなんて知らなかった。




【第七王子アーデルハイドを魔界から追放する】


魔王は最早僕を視界にも入れたくないのか、それは書面での通知だった。














人間界の森に逃げ込んで、数日が経った。


僕はここで死を待っている。


魔族の寿命は途轍もなく長いから、できたら森の獣に襲われて死にたい。


家族も、友人も、味方もいない。

そんな僕には生きている価値がないのだ。


静かに両手を広げて、崖の先に立つ。

あとは強い風に背中を押されて、落ちるだけ。



ようやく楽になれる。


そう、思っていたのに───


「お前、死ぬ気か?」


少し掠れた、低い男の声だった。

答えるのが面倒くさくて聞こえないふりをしていたのだが、


「俺に先を譲ってくれないか?」


予想外の言葉に思わず振り向くと、そこには無精髭を生やした若い男がいた。

男は僕の顔を見て、僅かに目を見開く。


「魔族……」


不快な単語を聞いて無意識に奥歯を噛み締めた。


「魔族はこの高さだったら痛いだけで、死ねないと思うぞ」


「……じゃあ、貴方が僕を殺してよ」


彼の腰に下げてある短剣を見つめながら、力なく呟いた。

すると男は僕から視線を逸らし、小さく溜息をつく。


「悪いな、これ以上魔族を殺したら天国の妻と息子に会えなくなりそうで」


男が自虐的な笑みを浮かべた。

その顔はやけに見覚えがあり、頭の中にまさかという考えがよぎる。


「勇者の、フェリクス・カディオ?」


「……だったら何だ」


「貴方が死んだら、誰が魔王を倒すの?」


「知らねーよ。俺はもう疲れたんだ」


そう言う彼が晴れやかな顔をしていたので、何も言えなくなってしまった。


「なぁ、お前はなんで死のうとしてるんだ?」


フェリクスに問いかけられ、ゆっくりと顔を上げた。


「……僕は黒髪黒眼で生まれたから、魔王にふさわしいって言われてたんだ。でも魔力量検査で0って数字が出た瞬間、史上最悪の期待はずれ認定されて魔界から追い出されちゃった」


「だから死ぬのか?」


「僕はもう、アーデルハイドとして生きるのが苦しいんだ」


自然と口から出た言葉に、自分で納得してしまった。


容姿を理由に敬われる存在として生きていたアーデルハイド。

魔王から愛されていると愚直に信じていたアーデルハイド。

全てが虚構だったと知り絶望したアーデルハイド。


それらの過去を消し去りたい。


感情のない瞳でそう言うアーデルハイドの目の前で、フェリクスは片膝をつき手を差し伸べた。


「俺に、お前の復讐を手伝わせてくれ」




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