マミヌマメ
@rei_255
むじな 其の一
その年の夏は異様に暑かった。じりじり照りつける七月の太陽に白く洗われた地面には、蝉たちの死骸が虐殺されたように夥しく転がっていた。
小学校からの帰り道、いつもの分かれ道で町住みの友人たちと別れ、片親だった父の赴任により当時引き取られていた山の手の古屋敷である祖母の家へ林の中の仄暗い道を一人帰っていると、傍の茂みで何かが動く物音がした。狸が出ると聞いていたため、ちょっとした好奇心から林へ下りて藪の裏側を覗いてみると、茂みの陰に涅色の肌をした毛のない生き物がじっと縮こまっているのが見えた。目を凝らして見ると、それは少女だった。黒曜石のように黒光りするすべすべの肌には布切れ同然の衣服しか身につけておらず、伸ばしっぱなしの長い頭髪を落ち葉の上に千々に振り乱し、膝を胸の前に引き寄せて小さな体を横たえ、ひくひく啜り泣いているのだった。
少女は細っこい体つきで、歳は二つか三つ下に見えた。右膝を抱えるように体を丸めており、その膝の少し上あたりに何かの鋭い切先で横にバッサリやったらしい大きな傷口が覗いていた。血は止まっていたが、流れた血の跡が赤黒い筋となって刷毛で引いたように褐色の肌にくっきり残っていた。ひどい怪我に見えた。
少女が不意に身を捩った。短い下履きの裾が灌木の露わな枝に引っかかり、太腿が露わになる。彼女の腿は、筋肉が異様に発達していた。ボンレスハムのようにむっちりと柔らかな質感を持つ一方、競輪選手のそれみたいに太く筋肉質で、暗い色合いの皮膚を透かして青い静脈が透けて見え、太さは少女自身の細っこい胴回りくらいあった。アンバランスになるギリギリ一歩手前の誇張されたプロポーション。華奢な上半身に比べあまりに屈強な下半身。それでぼくは、彼女が熊さえ蹴り殺すという山の
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