第6話

 日曜日9時40分先輩と約束した最寄り駅に到着する。天気は曇りで薄手の長袖を羽織らないと少し肌寒い。前日から落ち着かない……。いや、約束をした日から頭の中は今日のことでいっぱいだったのかもしれない。どんな服を着ればいいのか。何を話せばいいのか。何もわからない。この日まで学校でも家でも全てのことに対して上の空だった。しかし、自分の考え方がまとまらなくても時間は迫ってくる。センスは皆無なので最低限清潔感を心がけて服を選び髪の毛を整えた。

 先輩は果たしてどんな服で来るのだろうか。まず、服装でどんな心持ちで僕と時間を過ごすのか予測できる。スカートやワンピースなどのふんわり可愛らしい服装なのか、ズボンなどの動きやすさを優先した服装なのか。今日はスカートでは寒いだろう。衣服としての機能性を多少欠いてもスカートを選んできてくれるということはデートの要素をはらんでいると言ってもいいだろう。しかし、先輩は普段からスカートやワンピースを着ている人であれば何も意識していない可能性もある。思考を巡らせた結果ここで服装だけで判断してしまうのは危険だと判断した。一喜一憂しないように心を沈める。

 「もう来てたんだ。待たせてごめんね」

 先輩はロングスカートにシャツを着て一枚カーディガンを着ている。僕は跳ねた心を抑えるたるに目を閉じた。

 「どうかした?」

 「いえ、なにも。行きましょう」

 父親の関係でチケットをもらったから一緒に行かないかと博物館に誘われた。博物館なんて校外学習など学校の行事でしか行ったことがない。事前にホームページを見たが知識が乏しく歴史の教科書でみたことがある数点しか分からなかった。 

 「お父さんの友達が考古学を研究していてその人が関わっている展示会だからチケットもらえたんだ」

 「そうだったんですね」

 「でも正直に言うと、私そういうのあんまり詳しくなくて。面白くなかったら本当にごめんね」

 「いやいや。休日なんで家でだらだらするだけなので誘ってもらえて光栄です」


 電車で30分歩いて15分で博物館に到着した。中に入ると重厚な静けさがのある空気が館内に澄み渡っていた。受付を済ませて中に入る。薄暗くひんやりとした空間にに間隔を開けて展示物が置いてあるのがガラス越しに見える。


 青緑がかった青銅がさまざまな形をなして並んでいる。色は暗いが幾何学模様や花の形が刻まられていて近くで見ると少し面白かった。普段ならばこんなに一生懸命に青銅器の魅力を探さなかっただろう。先輩は顔近づけて見つめるだけで、本来の価値以上のものに感じる。だから、僕はこんなに興味を持っているのだろう。

 先輩の目が輝いて口角が上がっている。その姿を3歩後ろから下がって僕は見ていた。



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僕の人生は灰色のはずだったのに 瀬野みらい @senomirai1105

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